第30話 良いねえ、次はコイツだ
お楽しみください
俺はミュータントの突進を右に回避した。
そのままの勢いで車まで行き、屋根の上にカバンを放って金属バットを立てかける。
X−7は使えない。別の奴を使わないと。背負ったリュックの中からショットガンを抜き放った。瞬時に資料で見た基本的性能が頭にインプットされる。
モスバーグM500、ソードオフ(銃身を切り詰めた物)。装弾数は銃刀法に則って二発。ポンプアクション式散弾銃。
振り返って、突進してくるミュータントにぶちかます。弾薬は倉庫で装填済みだ。
ミュータントは走ってくる足を止め、例の如く怯む。イッツァチャーンス!
俺は出来るだけ車から離れるために警察署の本館に向けて走り出した。ついでにミュータントの後方からもう一発12ゲージを放つ。
「って、もうリロードか……」
弾薬ポーチの中から12ゲージ弾を二個取り出し、装填口に押し込んで先台を往復させる。不便だね。
そうしている間にミュータントの怯みが解けてまたも突進してくる。それを回転しつつ左に避けて、右手で持ったモスバーグの銃口をミュータントに押し当てた。ほぼ零距離。
照準を見ずにトリガーを引く。片手撃ちと言えど零距離なら外す筈も無く、当然の如くミュータントの行動を奪う。
ちょっと距離が離れた奴にもう一発お見舞いする。そしてモスバーグをリュックにしまい、別の銃器を取り出した。
イズマッシュ・サイガ12。銃刀法で二発。セミオート式。箱型弾倉。12ゲージを使う。
手に取った銃器の基本スペックが無意識に頭に投影される。
次には銃声とともに12ゲージ弾が銃口から放たれていた。ミュータントに着弾するも動きを奪っただけだ。
ミュータントってどうやったら倒せんだ?時間を稼いでいるが解決策が出なかったら死ぬだけだぞ?
とりあえず色々なことを試してみるしかないだろう。無駄撃ちをあまりしたくは無いが時間を稼ぎながら。
俺はもう一発の12ゲージをミュータントにぶち込み、サイガをリュックにしまった。
リュックの中から別の銃器を取り出す。
「次はコイツだ」
アロウズ−4。クローズド・ボルトの短機関銃。装弾数は27発。.32ACP弾使用。
Vz61「スコーピオン」には勝てないがこれもかなり小さいサブマシンガンだとか。弾薬はスコーピオンと同じだ。
セミ・フルオートの切り替え可能だが、威力の低い.32ACP弾じゃ単射を使う者は少ない。大体が連射使用だ。
弾倉位置はスコーピオンと同様。しかし直弾倉となっている。
俺はA−4を構えてフルオート射撃でミュータントにばら撒いた。反動が予想以上に軽い。
威力は低いが数で牽制して一時的にミュータントの動きが止まる。全弾撃ち尽くしても尚、ミュータントが倒れることは無かった。
A−4をリュックに戻し、次の銃器を引っ張り出す。
「それならこれでどうだ」
レミントンM870。ポンプアクション散弾銃。装弾数は銃刀法で二発だが……。
こいつぁ凄いぜ……弾薬を12ゲージ弾じゃなくて一粒弾にした仕様だからな。…………残念ながら一粒弾が一発しかなかったけど。最悪だ〜!泣けてきた!!
怒りというか嘆きのままにレミントンをミュータントに向ける。トリガーを引いた瞬間、何とも言えない反動が俺に降りかかってきた。
「のぉっ!?意外と来るな〜」
一粒弾はミュータントの右肩に直撃。流石にこれは効いたのか、出血しないものの肉が抉れた奴の右腕は動かなくなった。
キタコレ。チャンス到来。一粒弾サマサマだな。
リュックにレミントンを戻して、今度は肩に掛けたX−7を構えた。モードS。セミ。HUD起動。
ミュータントの右肩、傷口の辺りに照準を合わせて…………引き金を引く。
傷口に命中した激痛からか、ミュータントは一際大きく呻いて片膝をついた。
「終わりだな」
瞬間的、刹那的に俺はミュータントの下へ走り、ポケットから手榴弾を取り出した。それのピンを抜き、奴の傷口に押し込む。
ミュータントは左腕で俺を払い除けるが、痛みのせいで威力が無いーーと言っても数メートルは吹っ飛ぶぐらいはあるーーそれを、俺は前回同様両腕でガードした。ちなみに俺は数メートル吹っ飛ばされながらも何とか着地した。
「派手に爆死しろ」
辺りの空気を振動させるような爆発音と圧力の後にミュータントの体は爆発した。というより破裂した。
キタネエ花火だな。三回の遭遇でやっと倒せたぜ。俺はミュータントの残骸をみながらふと思う。
「アイツって痛覚あったんだな」
しかも爆発(というより破裂)すんだな。初めて知った。……今初めて倒したから当然なんだけど。
ほんの少し痛む体で車へ戻る。音を出しまくってゾンビが集まってきたからだ。
屋根の上のカバンと立て掛けた金属バットを車内に放り込み、俺は運転席に乗る。疲れた体を無理矢理動かし、ゾンビで溢れる前に警察署を脱出した。この時は気付かなかったが、ミュータントを倒せたことに嬉しさを感じながら。
東海林市ホームセンター。
そこに陣取る集団が居た。男二人に女一人、後高校生ぐらいの少女が一人だ。しかもゾンビに囲まれている様子。
「ミナト!数ガ多過ギル!!撤退スルゾ!!」
「わかったランド!」
服装は普通に見えるが、都市迷彩とチェストリグ(弾倉や手榴弾を収めるポーチがいくつも付いたベストの様な物)が彼らを普通じゃないと示していた。手には各々銃器を装備している。
「ミナト!先に撤退しなさい!」
金髪がかった長髪を揺らしながら、明らかに日本人ではない女性が叫ぶ。
ミナトと呼ばれた黒色の短髪の少女は無言で頷き、両手に持ったイングラム M10(カスタム)をゾンビに向けてトリガーを引いた。
穴が開いたゾンビの包囲網から、ミナトが走り抜けて脱出する。
「マーシャ!次ハオ前ガ行ケ!!」
「OK!クルス」
白人の男性が金髪の女性に促した。マーシャと呼ばれた女性も同様に穴から脱出する。
後には黒人のランドと白人のクルスが包囲に残った。二人とも背中合わせで冷や汗を垂らしている。
「ランド…………ドウスル?」
「クルス、スッカリ日本語ニ慣レタ様ダナ」
「オ前モナ」
カタコトながらそんな事を日本語で言い合っていた。二人に迫るゾンビは段々と数を増していく。
あと少しで噛まれる、と言う所で、遠方からミナトという少女の声が響いてきた。
「二人とも伏せて!」
反射的にランドとクルスは身を屈める。瞬間、
物凄い爆発音と共に前方のゾンビが弾け飛んだ。垣根に穴が開く。
「相変ワラズ無茶ヤルナ!ミナト!!」
「“チャーリーキラー”ナンテ使ウカ?普通」
何て言いながらも、ちゃっかり二人は脱出する。視線の先には、どこで手に入れたのか軍用車両があった。
そこの運転席にマーシャ、車体近くにミナトがグレネードランチャーを持って立っていた。マーシャを除く三人は何も言わずに、ただ拳を合わせる。
「流石ダナ、ミナト」
「当然、誰だと思っているの?」
軽く笑いあった後に、三人はハンヴィーに乗り込んだ。
いかがでしたでしょうか?
アロウズ-4はオリジナルです。
撃破するミュータント!謎の集団の正体とは?
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