第29話 俺はアイツと縁がある
お楽しみください
俺は大量の死体の中を音をたてずに歩く。ミュータントに認識されないようにだ。ニオイの方は心配無いだろう。これだけの血が撒き散らされていれば一人分くらいは紛れられるだろうし。
廊下の両脇に無残に放置されている死体が血の海を作る中、出来るだけ血に触れないように気をつけて足を下ろす。
音が出るのを避けるためと滑らないようにだ。以上のことに注意しつつ、俺は目的の場所に辿り着いた。
押収品倉庫。そう書かれたプレートが頭上で鎮座する中、辺りに敵の陰が無いことを確認してその中に入った。
まだ使える扉を閉め、鍵をかける。視線を庫内に巡らすと、床に散らばるのもあるが鍵付きの棚に並べられた銃器がちらほらと見えた。
大宮さんの情報通りだ。ふと十分前の大宮さんとの会話を思い出す。
「答えられる範囲なら……」
俺は一度頷くと、用件を簡潔に話し始めた。
「ミュータント……タイラント?の居場所は分かりますか?」
大宮さんは力無く横に首を振ると、分からないとギリギリ聞こえる声量で呟いた。
だろうな。分かれば値千金だったんだが……。しょうがない。
「じゃあ、警察署員の生き残りは?」
「いない……」
素晴らしいぐらいの即答だった。一人として脱出できなかったのか。正確には知らないけど。
そこまで言ったところで大宮さんの状態が悪化してしまう。持って後数分、一つぐらいの質問で息絶えるだろう。
最後の質問は決めてある。俺の行く末すら左右しかねない大事なことだ。
「最後に……使える武器はどこにありますか?」
彼の雰囲気が変わったのが分かる。高校生が武器のこと聞いたからか?
本当なら武器が欲しいなんてタイ〜ホものだが今は法は関係無い。この東海林市で法を適用してたら、ただ死ぬだけだ。
そのことを彼も分かっているのだろう。決心した様子で答えを語りだした。
「署員の装備は分からない。使える奴があるかも……。だが確実性を求めるのなら押収品倉庫へ行った方が良いだろう。ついでにコレも……」
彼は手に持った拳銃を俺に差し出す。俺は何も言わずに受け取った。
後は押収品か……。本来なら真っ先に持ち出されるべき武器だが、持ち出す前に署員が死んでしまったのだから仕方が無い。
ミュータントに武器は効かないからな。工夫しないと死ぬのは当たり前だろう。
「ありがとうございました大宮さん」
感謝の辞を述べた時、彼の意識があったのかは分からない。ただそれきり彼は動かなくなった。呼吸も無いみたいだ。
看取るのは気分が良いものでは無いな。…………当然か。俺は何も言わずに立ち上がり、静かに仮眠室を出た。
ということがあった。結果的に彼の情報通り押収品倉庫には武器があったわけだが。
鍵付きの棚を見ると、鍵が開錠されている。ここの武器もミュータント討伐に当てたのか……。
とりあえず目測だけで、使えそうな武器は十ぐらいありそうだ。
近くにあったテーブルに資料みたいなものがある。俺はそれを手に取りサラッと読んでみた。
『東海林市警察正式装備の納品について』
先日、東海林市内で起こった大規模銃撃戦の際、多数の破損を確認されたS&W M37を追加で三十丁納品致します。
弾薬の.38スペシャル弾については、ラインが整わない為、通常時より三割の低減を…………
途中で止めて資料をテーブルに放る。ふと目に付いた資料の日付は一ヶ月前だった。
一ヶ月前の大規模銃撃戦っていうと、何かヤバイ物の取引現場に警察が介入して、海辺の倉庫街で銃撃戦が起きたってアレか。テレビでチラッとやっていた気がする。数日で放送されなくなったが。
俺は大宮さんから貰った拳銃を見る。…………そうか、これがS&W M37か。
回転式弾倉の中を確認する。…………五発。弾薬は記述通りなら.38スペシャル弾。
コイツの名前はS&W M37、リボルバー、装弾数五発、弾薬は.38スペシャル弾。これがスペックだな。
「9mmパラベラムだったらUSPと兼用できるんだけどな……」
弾薬は持ちすぎると邪魔なだけだしな。しかもリボルバーは自動拳銃と違って装填に時間が掛かる。S&W M37は非常用の単発銃だな。もしもの時ぐらいしか使わないだろう。
手に持ったバットとX−7とS&W M37をテーブルに置き、押収品の中から大きめのリュックサックを探す。武器を入れるためだ。
棚のプラスチックケースを引っくり返して、かなり大きめのリュックサックを発見する。少々血が付いているが許容範囲内だ。
リュックに問題が無いことを確認し、俺はS&W M37をリュックの脇のメッシュ袋に入れた。抜き易いようにグリップを上にして。
「後は弾薬、それに武器の選別をしなきゃな」
リュックを持ったまま鍵付きの棚の方へ歩く。丁寧に保管されているものから、使おうとしたのか無造作に置かれているのもある。
棚の引き出しを開けると、その武器に関する情報や使われた事件、経緯、担当官が丁寧に書かれていた。
引き出しの更に下の引き戸を開けると、押収された弾薬や小道具が入っていた。
「マメだね警察」
俺は使えそうな武器を片っ端からリュックに詰めた。もちろん出し易いようにグリップは上だ。
入りきらない分は押収品の中のバックに詰める。弾薬も一緒に。何故か手榴弾とか火炎瓶とかあったけどついでにコレも持って行こう。
それらが終わる頃には数十分掛かっていた。疲労感も少し増してきたし。……だがこれで終わりじゃない。
とある棚からガンホルダー(足用)を取り出し、制服越しに右太股に装着する。そこにUSPを保持した。
リュックを背負い、カバンを持ち、X−7を肩に引っ掛け、金属バットを持つ。資料もついでにカバンに詰める。
「おk……完璧だ」
手榴弾を何個かポケットに入れてそう呟いた。正にグゥゥッレイトォ!
カバンは左手、バットは右手、リュックは背中、それらと制服脱いだら完全に兵士だな。傭兵か?
自重はこの際仕方が無い。後で楽するためだしな。
忘れ物が無いことを確認して、扉の鍵を開ける。そーっと顔を覗かせると辺りには誰も居ないようだ。
「行くか……」
音をたてないように扉を開けきり、身を廊下に出す。顔を覗かせた時には死角になった所にゾンビが数体居た。
今のこの状態じゃ相手には出来ないな。気付いてないようだし、スルー出来るか?
ゆっくりと階段方面へ向け歩き出す。途中で通らなければならない場所にゾンビが居るのがスリルを煽るが、気付かれたら死ぬと言うバッドエンドが俺の額に汗を垂らす。
落ち着け、焦ることは無い。いつも通りの隠密行動だ。何一つ変わりはしない。ゾンビが片側に寄っているのが幸いだ。俺は空いている反対側の壁に沿ってゾンビの群れを突破することを試みた。
眼前数十センチまで近寄るゾンビが気持ち悪い風貌とか。今まで良く見てなかったゾンビが間近に居る。ようやく通り過ぎた時には尋常じゃない汗が背中に伝っていた。ベタベタで気持ち悪っ。一旦休憩して、落ち着いた頃に歩き出した際に事は起こった。
バットの先を壁にぶつけてしまったのだ。甲高い金属音が辺りに響く。
しまった……!時既に遅し。三体のゾンビが一斉に俺に向けて歩き出した。
どうする?とカバンを置いてポケットを探っていたら、一つの円形状の金属が出てきた。薬莢だ。
見た所VAB弾の薬莢みたいだ。東女の時にハーメルンをヘッドショットした時のアレか!
俺は一か八か薬莢をゾンビの向こう側に投げた。バットと同様、甲高い金属音を鳴らして薬莢が床に落ちる。
瞬間、ゾンビはピタッと動きを止めて振り返った。そして音がした方へ歩き出す。
成功したみたいだ。危ねえぇ〜〜。カバンを持ち直し、急いで階段を下りた。
一気に一階まで下りるのに成功した俺は、ゾンビが居ないことを視認して正面玄関を抜ける。が…………。
「マジかよ……」
駐車場には小林邸とも東女の時とも違うミュータントが悠々と歩いていた。
俺、ミュータントと縁があるのかもな。泣けてきたわ!と、ミュータントが俺に気付いたようで俺に向かって走り出した。
「いいぜ……!来いよ馬鹿野郎!ここで白黒ハッキリさせようじゃねえか!!」
いかがでしたでしょうか?
再戦のミュータント!軍配はどちらに上がる?
それでは次回会いましょう!御意見御感想をお待ちしています!