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第19話 守護神たる資格

おはにちは!らいなぁです!

今回ヤバイです。気づけば10000文字書いてました。

2話分の文字量ですよ!どうりで永く感じたわけだ!

さらに今回は真面目回!&急展開な話です!

紹介はありません!はい!

 スーパーを出発して数十分。もう少しで小林邸に着く……という所で、何か異変を感じ取った。


「田代さん、あれ……!」

「むう……」


 小林邸の正門に、数百を超える大量のゾンビが殺到していたのだ。

 田代さんは高機動車を方向転換させ、敷地を沿うように走らせる。裏門へ行きましょう!と彼の声が耳に届くと同時に、一号館の方から爆発音が響いてきた。


「なに!?」


 突然の爆発に、姉貴はオドオドとした目つきで俺に聞いてくるが、俺に問いかけられたところで何も分からん!

 後ろに双眼鏡があります!田代さんのその言葉に、俺は指示性を感じ、双眼鏡を取り出して天井を開く。上半身を車外へ出し、爆発音が聞こえたほうを見ると、一号館から尋常じゃない黒煙が天へ立ち上っていた。

 俺は双眼鏡を使い、黒煙の元へ視線を向ける。すると、木刀を持って戦う冬紀とハンマーを持って戦う理奈の姿が見えた。

 ゾンビが襲撃してきたのか!?と思考し、彼らの周囲を探ると、ゾンビとは違う何かが視界に映る。そいつは2メートルを超える巨体を持ち、屈強な肉体でゾンビをなぎ払っていた。

 味方なのか?しかしそいつは周囲にゾンビがいなくなると、理奈へ向けて突進を始めた!


「あいつ!敵……しかもニューゾンビだ!」

「ええっ!?」


 俺は直感する。あいつは味方じゃない!ニューゾンビだ!

 やっぱり出てきやがった。新しいゾンビ!ハーメルンに次いでかよ!

 バイオハザードというゲームで出てきた「タイラント」や「ネメシス」に似ている。アイツらみたいに強力な敵かもしれない。だとしたら俺たちじゃ勝てない!


「田代さん!みんなが新しいゾンビに襲われています!」

「む!急ぎましょう!」


 田代さんは一際強くアクセルを踏み、高機動車をもっと速く走らせた。物凄い風圧に、体が後ろへもって行かれそうになる。

 俺はそれを気合で耐え、双眼鏡でニューゾンビを観察し続けて、ふと気づく。

 香澄さんが銃器を持ってみんなと一緒に戦っていることに。持っている銃器は昔どこかで見たことがある。何つったっけ?……MP5だっけ?

 確かH&K社のMP5とかいうやつだったはずだ。何だっけ?高性能のサブマシンガン?世界中の諸機関で使用されている信頼された装備だとか何とか。良く知らんけど。


「揺れますよ!」


 俺の思考を中断させるように叫ばれた田代さんの声に、俺は瞬間的に車体に掴まった。次にはカーブを曲がる横揺れと、急ブレーキによる跳躍が車体を襲う。

 しかし、秒も経たないうちに高機動車は急発進すると、別の方向から襲う風圧が、俺の意識を一瞬遮断した。

 本当に凄い運転だ!車外だと死ねる!死なないのは上半身だけだからか?

 心の中で悪態をつく余裕はあるが、それを口に出すほどの余裕が無いくらいこれはヤバイ!


「すぐに着きます!戦闘の準備を!」


 対して田代さんはめっちゃ余裕そうだ。俺は車内に戻り、ライオットガンを手にする。

 車外へ視線を向けると、裏門らしき入り口が見えた。幸い、ゾンビはこっちに数体しか居らず、高機動車で轢きながら敷地内への侵入に成功した。

 ここから一号館までそんなにないはず。すぐに戦えるように気構えとこう。

 と車体を横滑りさせながら目的地に到着したようだ。俺は逸る気持ちからか、高機動車が止まりきる前にドアを開けて飛び出す。


「みんな!」

「良祐!?」

「戻ってきたのか!」


 冬紀と理奈の待ちわびたような声を軽く受け止めつつ、俺は2メートル近いニューゾンビに12ゲージを放った。

 銃声の名残が耳から消え去る前にフォアエンドを往復させ、薬莢の排出と次弾を薬室チェンバーに押し込んだ。


「アイツは何だ?」


 さすがに12ゲージの装弾ショットシェルは効いたのか、少し後退しながらしばらく動かないニューゾンビを指し示す。

 ていうか5メートルぐらい離れているからって、散弾銃ショットガンを受けてほとんど効いてねえのかよ!

 冬紀がニューゾンビを見据えたまま、力なく首を振る。


「分からない。さっき突然現れて建物を破壊していっているんだ」

「アイツかてえよ!香澄さんの銃もアタシのハンマーも冬紀の木刀も効かねえ!」


 理奈、段々弱くなってってるぞ。ともかくアイツはやべえ!

 近くでよく見ると、その服装は他のゾンビ同様にボロボロだが、皮膚は土のように黒く、目は真っ赤に染まって血涙すら流している。

 見た目のキモさじゃ、ネメシスとかと張れるかもしれない。…………さすがにそれは無いか。

 ゆっくりと動き出すニューゾンビは、後方から来たゾンビを吹っ飛ばし、俺たちへ向けて歩き出す。


「りょりょりょ、良ちゃん!あ、アレ何!?」

「なんと……!」


 だから俺に聞くなって!俺と姉貴と田代さんが持っている銃器を理奈と冬紀は気にしているようだが、事態の優先度から聞きはしないようだ。

 こっちに向かってくるニューゾンビをよそに呑気なもんだな。


「田代!話してないで手伝って!」

「は、はい!」


 向かってくるニューゾンビへ牽制しつつ、香澄さんが俺たちにも怒号を飛ばしてきた。

 やべえやべえ。ライオットガンを構えてニューゾンビへ12ゲージをめり込ませる。


「そういや冬紀。円さんと早織は?」


 次弾装填しながら、俺がこの場に居ない二人の安否を確認すると、冬紀は大丈夫と笑って理奈が補足する。


「二人は車に物資を積んでるぜ!」


 なる。ゾンビの注意がコッチに向いている間にか。それなら安全だ。

 もう一発ニューゾンビへ向けてトリガーを引く。やはりニューゾンビは後退して、しばらく動きを止める。ちっ、こんなんじゃジリ貧だぜ!


「あのミュータントをなんとかしないと!」


 そんな冬紀の呟に俺は噴き出しそうになる。ミュータントねえ。


突然変異体ミュータントか。直球でいい名前だ」


 というわけであいつの名前はミュータントだ。俺が決めた。


 ミュータントはこちらに向かうゾンビをぶん殴って払いのける。まるで邪魔だと言っているようだ。

 ミュータントの性質なのか?ゾンビどころかお構い無しにぶん殴ると、脳内にメモしておこう。

 俺は冷静に観察してアイツの理解に力を注ぐ。後々役に立つからな。


 さっきの手順を繰り返し、ライオットガンを撃てるようにして、ミュータントにぶっ放す。


 銃声が響く中、迷わずに俺たちへ向けて歩いてくるな。聴覚の索敵はさほど優れていないのか。使えないのかは分からないが。

 視覚は…………無理だな。血涙のせいで見えやしねえだろ。あんなもん飾りみてえなもんだ。

 となれば嗅覚か?でも硝煙の臭いが凄い中でニオイを追えるか?いやしかし、ゾンビを的確に払いのけている。…………異常発達した嗅覚がいまんとこ候補かな。

 ゾンビの腐った臭いに反応して払いのけているのかもしれない。ゾンビが近くに居ると嗅覚が使えないからな。

 硝煙はさして問題じゃないんだろう。なるほど、ミュータントは嗅覚で生存者を追うのか。


 前にも言ったが、電磁波とか第六感とか超能力じゃない限りは嗅覚が一番候補。聴覚が二番手。視覚は三番手だな。


「こんだけ分かれば対策は立てられる」


 とは言ったものの、アイツを倒す術は無いわけで……。さて、どうしたもんか。


 とりあえずライオットガンをセミオートに切り替えて、残りの全弾3発を連続でミュータントへ叩き込む。

 やっぱあんま効いてねえな。俺は下部の装填口にポーチから出した12ゲージ弾を7発入れておく。

 ちなみに言ってないけど、このライオットガン(ベネリM3)はポンプアクションとセミオート射撃を切り替えることが可能。

 俺が今まで使っていたのはポンプアクション。今使ったセミオートは、フォアエンドを往復させること無く、薬莢の排出と次弾の装填を行ってくれる優れものなんだが、俺はポンプアクションが好きだからそっちを使っていた。


「皆さん!」

「お母様!」


 心の読者様に語りかけている時、俺の耳に円さんと早織の声が届いた。

 どうやら車に積載し終えたようだ。俺はフォアエンドを一往復させ、ミュータントに2発ぶち込む。

 よし、後は…………どうするんだ?そういや俺、何も聞いてないんだけど。

 その疑問を埋めるかのように、MP5をひたすらめり込ませる香澄さんは口を開く。


「車に乗りなさい!時間は私と田代が稼ぐわ!」

『!!?』


 何を……言って……!香澄さんは正気か!?


「どういうこと!お母様!」


 早織の衝撃度は物凄いことになっているだろう。やっと会えた肉親たちに1日程度で別れなければならないなんて。

 その説明を香澄さんの変わりに田代さんが語る。


「奥様と私はもう助からないのです」

『へっ?』


 もれなくその場に居た全員が間抜けな顔になっていただろう。唐突過ぎる!話に脈絡が無いんだよ!

 そして田代さんは右袖を捲る。その腕にあったのは……


「私はもうお終いのようです」


 噛み傷だった。まさか…………ゾンビにやられたのか?

 全員が顔を青くさせ、信じられないものを見た表情で凍りついている。ちっ、さっきの買い物の時か!

 いやでも、ゾンビ化はきっかり30秒で起こるはず。田代さんは数十分経った今でも普通にしているぞ?


「個人差ですよ」


 彼は笑っていうが、そんなものなのか?何か特殊な条件次第でゾンビ化を遅らせることが出来るのか?

 いやいやいや、そんなことはどうでもいい。えっ?何だって?つまり田代さんはもう、助からない?

 彼と香澄さんはミュータント相手に戦っている中、俺たちは突きつけられた現実にただ打ちひしがれていた。


「香澄……さんは?」


 さっき田代さんは自分だけじゃなく、香澄さんもアウトだと言った。でも香澄さんは噛まれてはいないはずだ。

 俺が真偽を確かめるように放った言葉に、香澄さんはMP5を撃ったまま答える。


「私は元から病に冒されていたから……」


 後1ヶ月と持たないの。そう言った彼女の顔は清々しさすら覚えるほど爽やかだった。

 マジか……。二人は助からない。俺たちは何のために……。


「早く行きなさい!」


 ゆっくりと考える時間は無いと言わんばかりの気迫で、香澄さんは俺たちへ喝を入れる。

 そうだ。今助かる可能性のある命だけでも守らなければ!

 俺は残弾5発をミュータントへばら撒き、みんなを急かす。


「急ぐぞ!香澄さんと田代さんの厚意を無駄にするな!」


 しかし誰一人として動こうとしない。無駄に正義感の強い奴らだ!


「行きなさい!」


「行けません!」

「見捨てて行ける訳ないでしょう!」

「ほっとけねえよ!」

「一緒に行きましょう!」

「皆さんで!」


 早織が泣きそうになりながら反論し、冬紀が熱い思いを放出し、理奈が信念から反発し、姉貴が厚意から説得し、円さんが子供のように同意する。

 だけど香澄さんはいい加減にしなさい!と場を鎮めると、ミュータントを田代さんに任せて俺たちのほうを向く。


「わがまま言わずに言うことを聞いて!」


 それでも誰も聞き入れることは無い。俺を除いて。


「…………はあ、何故私は沢山の銃器を所有していると思う?」


 何だ?何を言っているんだ?多分彼女は何かを伝えようとしている。今はそれだけしか分からない。


「未知なる脅威に対抗するためよ」


 未知なる脅威?何のことだ?まさか…………これか?しかし彼女は首を横に振ると、力なく言葉を紡ぐ。


「分からない。でも武器を持っておけと言ったのは主人なのよ」


 言われたとおりに武器を集めたけど、警察や政府は何も言ってこなかったわ。銃刀法違反なのにね。

 そう付けたし、彼女は苦笑いをした。……分からない。


「それから色々調べたけど結局分からずじまいだった。でも貴方たちなら!」


 この謎を自分が解明できなかったから俺たちがしろってか?はあ?


「貴方たちは生きて真実を解明するの!」

「ふざけんな!」


 何だそれ!意味分かんねえよ!意味の分からなさがパニック起こしてるよ!

 俺は12ゲージを7発装填してリロードをする。


「俺たちの行動を勝手に選択してんじゃねえ!生きる気すらない奴に操られるほど俺たちは愚かじゃねえんだよ!!」

「「!!?」」


 香澄さんと田代さんが驚愕する中、俺はミュータントへライオットガンを構えて歩き出す。


「真実解明するために生きてるわけじゃねえ!」


 ミュータントへトリガーを引く。落ちた薬莢が金属音を鳴らした。


「未知なる脅威?突然すぎんだよ!伏線張って順序良く説明しやがれ!」


 再度ミュータントへトリガーを引く。銃声がいつもより長く響く感じがする。


「たとえもう少しで死ぬとしても最後まで抗い続けろよ!早織のために!」


 三度ミュータントへトリガーを引き、同時に奴へ向けて駆け出す。右の拳を後ろへ引き、一際強く拳を握る。怯んでいるミュータントへ向けて、円さん譲りの腰の入ったボディブローを放った! 

 ミュータントはバランスを崩し、仰向けで地面に倒れた。


「ていうか俺の頭の中パニックなんだよ!これ以上伏線張るな!」


 ええ〜!!?というみんなの心の声が聞こえた気がしないでもない。どんな時でも俺のスタイルを崩さない、それが前原良祐まえばらりょうすけだ。

 俺は香澄さんと田代さんをひっ捕まえて、全員へ指示を出す。


「というわけで撤退するぞ〜!」

『ラジャ!』


 俺たちは一号館内へ向けて逃走を開始した。





「さて、今度こそどうゆうことか聞かせてもらおうじゃないか」


 一号館一階。とある部屋で、俺たちは身を潜めてさっきの説明を求めていた。

 全員が納得できないような表情で香澄さんと田代さんを見ている中、俺が代表して香澄さんに事の真相を問いかけた。


「始まりは3年前。夫との離婚の際に彼が言った一言だったわ」


 そして香澄さんは、始まりであるプロローグを語り聞かせてくれた。


 香澄さんの夫は言った。「武器を持て。早織が高校在学中に何かが起こる」それが全ての始まりだった。

 言われた彼女は言うとおりに武器を集めた。途中、銃刀法違反じゃねえの?みたいな事を考えたらしいが、不思議と警察も交流のある政府も何も言ってこなかったらしい。

 彼女は不審に思い、あらゆるネットワークを駆使したが情報は集まらなかった。

 そんな中、突然夫と連絡が取れなくなったらしい。行方も不明。

 夫の行方が分からないまま月日は流れ、気づけば早織の高校入学式。最初のほうは問題なかったけど、8月1日である一昨日、こうなってしまった。

 夫の言ったとおりに。「何かが」起こってしまったのだ。


「それからも情報収集はしていた。そして一昨日、夫との連絡に成功した」

「!?」


 早織が息を呑むのが分かる。当然だろう。父親のことなんだからな。


「彼はこの事態のことを“成るべくして成った生物災害バイオハザード”と言っていたわ」


 という香澄さんの言葉に少し違和感を覚える。何だ?このモヤモヤは……。

 しかしそれを顔に出さず、香澄さんの語りを聞き続ける。


「彼によると、これは2年前に始まっていたらしいのよ。とある1人の人間によって」


 やっぱ馬鹿が居たか。こんなことになった原因が。


「詳細は分からないけど、彼はそれだけを言ってまた行方を絶ってしまった」


 早織が残念がる。分からないでもないけどな。やっとの手がかりだったのに。


「それがこの事態に関する知っていることの全てよ」


 いや…………嘘だ。たったこれだけの情報で俺たちが真実を解明できる鍵だと分かるはずがない。

 さっきが嘘か、これが嘘なのは間違いないだろう。


「病気のことは去年には分かっていたの。余命が1年ぐらいだって」


 話が変わったか。真相は後で聞こう。俺は言いかけた言葉を心の中にしまう。

 全員の空気が悲しみの色に変わる。人が死ぬのって悲しいよね。俺は分からないけど。


「田代はさっきゾンビに噛まれたらしいわ。私たちはもう助からない」


 やっぱあん時か。迂闊だったぜ。俺ってばミスってばっかだな。


「だから貴方たちだけでも行きなさい」

「そんな!お母様!」


 早織が泣きかけの顔で香澄さんに寄り添う。まあ、現在行方が分かっている最後の肉親だしな。


「いいから。言うこと聞いて」


 香澄さんは優しく言い聞かせるが、早織はそれでも引き下がる。


「でも、お母様が居なくなったら私1人に……」


 そう言いかけた早織の口を塞ぎ、香澄さんは視線を巡らして俺たちを見た。


「貴女には仲間がいるでしょう。もう大丈夫よ」


 彼女はそう言うと、俺の所へ来てみんなに聞こえないように小声で言った。


「お願いね。リーダーさん」

「2回言われなくても分かってますよ」


 少し口元が緩んでしまったかもしれない。香澄さんはそうそうと思い出したように呟くと、これまたみんなに聞こえないように言った。


「さっきのことだけど、詳細が分からないって言うのは嘘よ」


 やっぱりな。そんなことだろうと思ったよ。


「夫が言うには“前原良祐まえばらりょうすけ”という男が鍵を握っている。……だそうよ」


「なにっ!!?」


 俺?どういうことだ?俺なんかしたっけ?


「後は知らないわ」


 彼女は追加でそう言うと、早織の元へ歩いていく。

 俺が鍵を握っているだと?そんな身に覚えはないが……。確か、こんなことになった始まりは2年前と言っていたな?

 2年前といえば、姉貴が誘拐された事件もあったが、俺としてはある一つある。

 中学3年進級直後、俺の黒歴史。以前言ったかもしれないが、女にフラれてクラスのほぼ全員からイジメられた頃と丁度一致する。

 どういうことだ?どういうことだ?訳分からん。


 とそんなことを考えていた時……。


「静かに……!」


 田代さんの声が耳に届く。全員が静まり返ってしばらくすると、外からドガンドガンと足音が聞こえてきた。

 ミュータントが来やがったか!ていうか足音すげえな!巨人かよ!

 ミュータントの足音はこの部屋の前で止まる。見つかったかと思ったが、すぐに足音が遠ざかって行った。

 あれ?見つからなかった?まあこの一号館って建てられてから何百年経ってるからな。臭いで追えなかったんだろ。


 しかし、それは違っていたみたいだった。


「危ない!」


 香澄さんが叫び、近くの早織を俺のほうへ突き飛ばす。と同時に、香澄さんの前の壁が物凄い音と共にぶっ壊された!


「きゃあっ!!」


 それに巻き込まれた香澄さんは、衝撃から後方へ吹っ飛ばされてしまう。


「お母様!」

「奥様!」


 早織を受け止めた俺は、ライオットガンを壊された壁へ向ける。すると埃と煙の中から、ミュータントが姿を現した!


「ちぃっ!」


 ネメシスかよ!俺はミュータントが動き出す前に12ゲージをぶち込む!


「車に走れ!逃げるぞ!」


 全員に指示を出し、ミュータントを牽制しながら香澄さんに肩を貸す。


「こんな死に様なんて許さない!早織のために1秒でも永く生き残れ!」


 田代さんにも言い放ち、ミュータントへトリガーを引きながら全員を出口へ向かわせた。

 くそっ!片手じゃショットガンを操りきれねえ!田代さんに任せるしかねえな。

 全員が出口を出たのを確認し、ミュータントを田代さんに牽制してもらいながら俺と香澄さんはみんなの後を追う。

 もちろん後方に田代さんを連れ添って。


「お手伝いします」


 田代さんは香澄さんの反対側の肩を持ち、片手でウィンチェスターM1300をミュータントへ食らわせた。すげえ。

 みんなの後を追いながら廊下を疾走していると、後方から壁が壊れる音と共にミュータントがゆっくり走ってくる。

 全力で走れば簡単に振り切れるレベルだが、怪我人が居る状態じゃすぐ追いつかれる!


「こんにゃろ!」


 田代さんを真似して片手で撃つが、照準がブレて上手く当たらない。それでも足を遅くさせることは出来たようだ。

 ポンプアクションで次弾装填した田代さんは、M1300をミュータントへ向ける。しかし……


「むぅ!!」


 勢い良く走ってきたミュータントの腕振り回しに、銃身を掠めて取り落としてしまった。

 だが田代さんはすぐさまX−7に持ち替えると、フルオートでVAB弾をミュータントにばら撒く。

 ミュータントは直撃を食らい、失速していく。チャンスだ!

 前方へ視線を向けると、車庫らしき場所の扉が視界に入り、みんなが続々と入っていくのが確認できた。


「田代さん!」


 ミュータントに掛かりっきりの田代さんに注意を促す。彼は頷くと、肩を貸すのを一旦やめ、俺の後方を随伴する。

 先に俺と香澄さんが扉を潜り、後に田代さんが扉を潜ると、ミュータントは扉を潜れないと思ったのか壁ごと扉をぶっ壊した!


「良祐さん!急いでください!」


 軍用の車だろうか?かなり大きな車に乗り込んだ円さんが俺たちに手を伸ばしてくる。

 俺は円さんに香澄さんを預けると、弾切れを起こしたライオットガンに12ゲージを詰め込んでいく。

 リロードが終わると、ミュータントに向けてトリガーを引きまくった。3発ほど。


「田代さん!早く乗って!」


 しかし、田代さんは首を横に振ると、X−7をハイパワーに持ち替えてヘッドショットをかます。

 それでも全然効いてないミュータントは、少し怯んだだけでまたこっちへ向かってくる。


「こいつは脅威です!私が押さえている間に早く!」


 くっそ!頑なだな!すると香澄さんはMP5のマガジンを換えると、ミュータントへトリガーを引いた。


「私たち……が、食い止めている間……に、早く!」


 骨が2〜3本折れていてもおかしくない様子で、香澄さんはミュータントへ向けて歩く。

 ちぃっ!どいつもこいつも!人の話を聞けよ!

 俺が2人の元へ走ろうとした時、香澄さんが一際深く息を吸い込んで、一気に吐き出した!


「行きなさい!死ぬ人間をどうにかするより、今生きている自分たちをどうにかなさい!!」


 最後の力とばかりに叫んだ香澄さんは、言い終わった後にフラっと倒れそうになる。


「お母様!田代!」


 くそっ…………厄日だ。俺が悪役にならなきゃいけないのか。

 俺は車へ戻り、2人の元へ走ろうとしている早織を引き止める。


「退きなさい」

「退かねえ」

「退きなさい!」

「退かねえ」

「退きなさい!!」

「退くわけにはいかねえんだ!!」


 あの2人がどんな思いで戦っているのかわからねえのか!

 多分そんなことを言った。よく分からない。色々な思いが渦巻いて何を考えていたかなんて忘れた。

 俺は早織を車の中に押し込むと、他の全員も車に乗せ、最後に俺が車に乗り込んだ。

 扉を閉める前に戦う2人を見る。その顔はこれから死ぬかもしれないのに笑顔だった。


「わからねえよ。俺にはわからねえ。何で死ぬのに笑顔なんだ?」


 それは若い希望を送り出すことが出来るからよ。香澄さんが言った気がした。

 最後に人の役に立てて嬉しいんですよ。こんな老人でも。田代さんが言った気がした。

 やっぱり俺にはわからねえよ。クソッタレ。でも…………ありがとうございました。


 俺は車の扉を閉め、姉貴に車を出すように指示する。車が発進して、2人が遠くなっていく中、やっぱり2人は笑顔に見えた。


「お母様ぁ!!田代ぉ!!」


 そんな早織の泣き声だけが、車内に虚しく響き渡っていた。





「ねえ田代?」

「何でしょう奥様」


 倒れた香澄を抱えるようにして、田代は地面にしゃがみこんでいた。


「最期まで付き添ってくれてありがとう」

「いえいえ。それが私の生きがいですから」


 ホッホッホと笑う彼の眼からは真っ赤な涙が流れていた。もう永くない証でもあるかのように。


「あの子達、無事に脱出できたかしら」

「大丈夫ですよ。早織お嬢様はお強い方ですし、仲間もいらっしゃいます。それに……」


 彼が居る。そう言った田代の顔は随分にこやかだった。香澄も同意するように微笑む。


「そうね。あの子がリーダーなら心配は無いわ」


 段々と声の音量が小さくなっていく香澄。田代も様子がおかしくなっていく。


「心残りは無い…………と言いたいところですが、唯一残った孫が心配です」

「高校生の?」


 そうです。田代はそう言って目を閉じる。孫でも思い浮かべているのだろうか?


「元気だと良いのですが……」


 彼は手に力を入れて何かに抵抗しているように見える。あまり時間は無いのだろう。


「きっと大丈夫よ」

「……はい」


 香澄はゆっくりと瞳を閉じていく。田代も同様に瞳を閉じた。

 そんな彼らの前には、ひざまずいた血だらけのミュータントがいた。が、死んで無いようでゆっくりと立ち上がる。


「田代」

「はい」


 目を閉じたまま2人は笑った。不思議なくらいの笑顔で。


「ありがとう」


 ミュータントは思いっきり振りかぶり、その2人に拳を振り下ろす。


 肉が潰れるような音と共に、大量の鮮血が、辺り一帯に撒き散らされた。





「今の……!」


 不思議な感覚に、俺は遠ざかっていく小林邸の敷地を見る。

 まさか…………2人が……。くそ、くそ、くそ。俺は今日だけでくそって言いまくってた気がする。

 未だ鳴り響く早織の泣き声の中、俺は香澄さんがくれた物資を調べていた。


 食料だけじゃなく、銃器や弾薬、武器に雑貨など様々な物があった。


 その中にあった一つの銃を手に取り、俺はふと思う。

 香澄さんには色々助けてもらったな。今回もそうだけど、香澄さんがくれたUSPがなかったら姉貴を助けられなかったな。

 田代さんには色々教えてもらったな。銃器の使い方とか、性能、それに他にも色々。


 あの2人のおかげだな。感謝してもしきれねえ。お返ししてえぐらいだ。

 まあ、お返しが出来なくなったわけなんだけど。…………畜生。

 俺は馬鹿だ。みんなに迷惑掛けて、それで人が死んでいく。しかも、もしかしたら俺がこんな状況を作ったかもしれないのにな。


「くそっ」


 小さく呟く俺は、生まれて初めて力が欲しいと思った。みんなを守れるだけの力が。


 俺が手に取った銃は田代さんのメインアームと同じAF VW03。開発コードはX−7。

 試作品だからあまり数は無く、田代さんのと合わせてこれで全部かもしれない。

 田代さんのと違って性能に改造チューンはかけてないはずだから、これがノーマルのX−7。


 こいつの別名は、防衛戦で最高の力を発揮する構造から、「守護神ガーディアン」とも呼ばれているらしい。


 何の因果だ…………これは。俺に対するあてつけか?香澄さん。田代さん。

 俺はその日、おそらく数年ぶりに涙を流した。

いかがでしたでしょうか?

はわわ!あわわ!香澄さーん!田代さーん!

やっぱり平和は永く続かないわけですね。気づかされました。

そしてニューゾンビ!その名も突然変異体ミュータント

小林邸が壊滅したのはこいつのせいとも言えます。

2人の犠牲の下、命からがら脱出した主人公たち!死が満ちる町でこれからどうするのか?

それでは次回会いましょう!御意見御感想をお待ちしています!

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