顔合わせ
顔合わせが行われる部屋は王宮の規模にしては小さめの円形の部屋だ。ミルハ達に付き添われ,扉の中へと足を踏み出すと、もう既に到着していた妃候補達面々の視線が突き刺さる。まだ少し時間があるのか、それぞれの妃候補達は侍女達と共に陣営を作るかのごとく、用意された椅子に座っている。
正直値踏みされるような視線と密やかな話し声は気持ちのよいものではないが、仕方がないのかもしれない。自分は王妃などなる気は毛頭ないし、いずれは地球に帰るつもりでいるのだが、そんな事情は相手側には知った事ではないのだろう。それぞれが相手を伺うような雰囲気が充満している。
桜華もミルハに促され席へ着くとゆっくりと妃候補達を眺めつつ、事前にティターニアから教えられていたデータと照らし合わせて行く。他に特にやる事もないのでどうせならこちらからもゆっくり観察させてもらおうと思ったのだ。
一番右端の金髪ゴージャスぼんきゅっぽん(言い方は古いがまさにその通りのダイナマイトボディーだ。無駄に胸元が強調されるこの衣装で、彼女の胸はホルスタインのごとくでかさを誇っている)のお姉さんは確か妃候補の中の最年長22歳で西の大きな領地を預かっている貴族の娘で名はカリオペ。家名はアリタイアだったか・・?権力者の娘らしい気位の高さを持っている女と聞いている。
その隣はクリュテ家の次女エウドラ。年は19歳、皇太子である王子と唯一同じ年の腰迄ある、流れるような栗毛と同様の瞳をもつ勝ち気そうな美少女だ。先ほどからこちらを意識して敵意のある?視線をばしばしとぶつけられている。まったくもって迷惑な話だ。私を意識してもなんの得にもならないだろうに・・・。
3番目はクロエ メライナ。王家の呪術的な役割を代々保つ一族の娘で、クロエはその中でも特に優秀な呪術師兼薬師だそうだ。容姿はどちらかというと中東系美女といった感じだ。白い肌だが、波打つ黒髪が腰迄体を覆っている。だが、黒いベールで顔を半分隠している上、ずっと下を向いているので表情は伺えない。
そして次は・・ネオラ ニコラコプールプー、確か16歳になったばかりの少女。青眼で金色、ふわふわの髪の毛を持つ彼女を見て先ほど図書室で出会った可愛い幼女を思い出す。もしかしたら妹だったのだろうか。それにしてもこちらの人達はまだまだ比較的若い年代で結婚する人が多いようだ。まだ若いのになあと思いつつじっとその少女を見つめていると視線に気がついたのかその少女と目が合う。と、少し顔を赤くしてそっぽを向かれてしまった。先ほどの幼子といい、何か自分に怖がらせる要因があるのかとちょっと傷つく・・。
苦笑しつつ5番目の候補を観察する。オウラニア パナギョータ20歳。均整の取れた体つきに良く合う薄緑の衣装を身に纏っている。随分と落ち着いた雰囲気を醸し出している。北の惣領姫と呼ばれ、その頭脳の高さには定評があるらしい。
そして最後はフィロメナ スマローナ。年は自分と同じく18歳だ。肩迄延ばした赤めの髪をもつ大人しめな感じの少女なのだが、ティファーニアの資料によると、彼女の周りでは何かときな臭い事件が多発しているらしい。
危ない感じには見えないが人間見た目だけで判断できないことは良く知っている。
失礼な事も含め色々と観察しながら考えていると、広間の荘厳な扉が開かれた。
どうやら王子がやってきたらしい。皆一律に立ち上がると胸に手を当て、臣下の礼を取る。王子から声がかかる迄顔は上げてはいけない作法らしい。私も慌ててうつむきながら胸に手を置いた。
ティファーニアの弟・・私より1歳上の19歳。妃が決まればすぐに即位するらしいのでかなり若い王となるに違いない。本人には興味は無いが、せっかく?妃選びに参加したのだから、その彼がどんな人物でどんな相手を選ぶのかを見届けてから帰るのも一興だろう。
そのとき静かに「面を上げよ」との声がかかり、桜華はゆっくりと顔を上げた。