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王姉2

「あり得ない・・・なんなのここは?」

不安、期待、いやそれ以上の何かが自分の中で渦巻く。そこは、桜華の知る「現実」では考えられない空間だった。と同時に確信する。ここは自分が知っている世界ではないのだと。


そこはまさに物語りの中の世界だった。理想郷と言っても良い。年々緑を無くして行く地球と違ってここはなんと豊かな土壌なのだろう。もちろん今見ているものがすべてではないと理解しているが、言葉に出来ない感動にしばし瞠目する。

と、気遣うように隣の美女が桜華の制服の袖をひっぱる。

大丈夫だと言うように微笑んでみせると、彼女はもう一度桜華の手を握り直した。

しばらく歩くと何か乗り物のようなものが見えてきた。車と形態は良く似ているが、車輪がない。促されるままに乗ってみるといきなり車体が宙に浮かび滑るように走り出した。一体どういう原理で走っているのか興味が尽きない。


30分ほど走っただろうか、目の前に大きな城のような建物が見えてきた。それ迄の間、市街地のような場所も通ってきている。見た所、この車にしてもそうだが、自分の居た所と違った意味でかなり高度な文化が伺える。

それにしても気になるのが丁度市街地を通った時に見た看板の文字らしきものだ。私はソレを見た事があった。そう、親の手伝いで夏休みに行った海底遺跡から発掘された文字盤に描かれていた幾何学模様にそっくりだった。

そして王宮らしき城についた時、掲げてあった太陽を象った紋章を見て思わず私は口ずさんでいた。


「まさか・・アトランティス?」


その言葉に隣に座っていた美女が驚いたように反応した。まさかと流行る心を抑えつつ矢継ぎ早に質問したい事が山ほどあるというのに、これほど言葉が出来ない事にいらだちを覚えた事は無かった。

その後、私は城の中の1室を与えられ、幾人もの家庭教師を付けられ、徹底的に言葉と文化を叩き込まれた。

好きこそ物の上手慣れと言う言葉通り、私は教えられるすべてを吸収し、約半年が経つ頃には、会話が成り立つぐらいになっていた。


そこで自分は沢山の信じられない事実を知る事になる・・。まず、この世界はかの伝説、おとぎ話だと思われていたアトランティスの民が祖先となった異世界の地である事、彼らがパラミシアと呼ばれる何らかの超人的な力を持っていた民であり、大陸の崩壊の危機に、異空間を繋げ、新しい地で豊かな文明を築いてきた事。

そして・・・何故私がこの異世界へと呼ばれたのか。これが一番不可不思議な出来事だと思っているのだが、私をこの地へ呼んだのは、一番最初に神殿らしき場所(今ではそこが太陽の神殿と呼ばれる場所である事は知っている)で出会った美女、ティターニアだった。


ティターニア曰く、次期このアトランティスの王として立つ彼女のたった一人の弟の為に様々な占星術により一番相応しい妃となれる人物を召還しようとしていたそうだ。だが、その儀式を行った時には、誰も現れず失敗したかと思っていたのだが、二刻の時間の後、私が突如神殿に現れたという知らせを受け慌てて駆けつけたらしい。まさか彼女も祖先が昔住んでいたと言われるテラ(地球)から召還されるとは思ってもいなかったらしく、始め言葉が通じない私を兵達は訝しがったが、王姉には私が「そう」なのだと確信があったらしく、丁寧にも王宮へと連れて行かれた訳だ。


正直この世界は私にとって宝の宝庫ではある。両親をもしここへ連れてきたならきっと私以上に舞い上がってしまうに違いない。しかしだ、この半年間一度として、残された家族の事を考えなかった日はない。言葉が通じたなら、すぐにでも返してもらおうと思っていた私に王姉ティターニアは優雅に微笑みながら言った。


「そうね、まさかテラからあの子の妃が召還されるとは思ってもみなかったけど、貴方は鈴の音に答えてこちらに渡ってきたのなら間違いないわ。あれは、選ばれた者にしか聞こえないのですもの。きっと時間がかかったのはこの世界にあの子の対となれる魂の持ち主が居なかったからね。」


「嫌・・あの、話を聞いて下さい。私の家族も心配していると思うし、返してもらえるとありがたいんですが」

「無理よ・・?」

「え?」

「だって、あれはもともと異世界から召還をする術ではなかったのよ。それなのに貴方は太陽神に選ばれてこの地へと導かれた・・。これはきっと運命なのよ!」


興奮するティターニアを横目に小さくため息をつく。この人は・・・全然人の話を聞いていない。実は、王姉に話を聞く前に家庭教師としてついていた神官に少しだが話を聞いていた。まだ難しくて理解できないところもあったのだが、要約すると、確かにティターニアの言う通り、彼ら神官が行った術は古から伝わる婚姻術の一つであり、召還術ではない。実際、召還術を使ったとしても今迄テラより人が召還された事は一度もないらしい。

つまり彼らの術に呼応する能力を持ち得る人物であるという事が前提であり、力をもたない一般人は呼びかけに答えることすらできないらしい。というか、呼びかけに答えたというが、あの鈴の音がそうらしいのだが、答えたつもりは一辺倒もないと言うのに・・・。


帰る方法を問うと、神官は静かに首を振った。だが、可能性は無い訳ではないらしい。向こうの世界、つまり地球にこちらとの世界を繋ぐ鍵と呼ばれる存在が居てなおかつ、相手側もかなりの能力を有していないと異界渡りの扉を開く事は難しいらしいのだが、神官曰く、昔アトランティスが滅んだ時、わずかだが他の大陸へ渡り、テラに残ることを選んだ古代人がいたらしい。鈴の音に導かれたということは、桜華の先祖はその残された血を引く者なのかもしれない。とすれば、同じ血を引く双子の千早と何らかの形で繋がる事ができるかもしれないのだと。


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