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王姉1

朝の冷たい空気を吸い込みゆっくり吐き出しながら長年体に染み付いた武道の型を一心に紡いでいく。静寂なその一時がパチパチという手を叩く音によって遮られた。

「すごいです、桜華様!それは何か儀式の為のものなんですか?」

「ミルハ」桜華は声をかけてきた人物へとゆっくり目を向ける。「ごめん、もう一度ゆっくり言って?何の儀式って言ったの?」

声をかけられた少女ははっと気がついたように少し顔を赤くして口ごもる。


「ごめんなさい。桜華様、もうすっかり私たちの言葉を理解しておられるので興奮して早口になってしまいました。はい、ええと、それは何かの儀式の為の舞なのですか?」

「まだまだ勉強中よ。そうね、これは古武道の型の一つ・・って言ってもわからないか。でも元々は神道の舞にも通じたものでもあるから儀式に関するものとも言えなくはないわ。ところでミルハ、何か用事があって来たんではないの?」

「あ、そうです。すっかり忘れる所でした。ティターニア様が桜華様を呼んでくるようにと・・きっといよいよですよ!?」興奮して喋るミルハと並んで歩き出しながら桜華はこの世界に来た時の事を思い出していた。


***


水の流れる音がする・・・。


背中が冷たい・・・固い・・これは何・・? 私は気を失っていたのか・・・?

ゆっくりと瞼を開き、起き上がると、目に飛び込んできたのは緑の楽園と中央にある大きな噴水だった。あまりの美しさに自然と目を奪われたが、すぐに何かがおかしいと考えだす。そうだ、あのすべての時間が止まった瞬間の事を・・。あんなにうるさく鳴り響いていた鈴の音はもう聞こえない。あるのはむせ返るような緑と流れる水の音。そして・・・視線。

何人居るだろう・・4〜5人、じっとこちらを伺っているのがわかる。これでも長年武道をやっているだけあってそういった気配には鋭くなっている。


今の所剣呑な気は向けられていない。何故自分がこんな所にいるのか、まずは聞いてみる必要がある,そう考えているうちに正面の緑の木々の奥にあった扉が静かに開き、ゆったりとしたトーガらしき衣装を纏った幾人かの人々が桜華に向かって歩いてきた。その中央にはこれ迄に見た事の無いような妖艶な美女がいる。


コスプレ・・・?ここまで派手な舞台を用意してまでのドッキリ?彼らが到着するまでの間様々な事柄が頭の中を巡る。怖いと思う気持ちは不思議となかったが、それよりも興味の方が勝っていた。

桜華から数メートルのところで謎の一団は立ち止まる。丁度両方向からお互いがよく見える位置だ。着ているもので判断するならば前列にいる男達は剣らしきものを下げている。後ろの美女の護衛といった風だ。もし何処か人様の住居?に家宅侵入してしまっているのだとしたら怪しまれるだろう。


格好そのものとしては、相手側の方が十分に怪しいが・・。ふと何処の人達なのだろうかと考える。顔立ちは西洋人ぽいが、黒髪の者もいれば黒に近い瞳をもつものも居るようだ。

と、相手側の一人が向こうから何かを叫ぶ。


「οσδ'οὖνκαὶαὐτὸςὑπ'α」

「は・・?」

「οσδ'οὖνκαὶαὐτὸςὑπ'α νἐμῶνκατη」


一番手前に居た男がもう一度何かを喋った。自慢ではないが、考古学者の卵としてある程度一般の言語には耳慣れているつもりだったが、まったく何を言っているのかわからない。

すぐに言葉が通じないと悟ったのか、手前に居た男が何やら美女の隣にいる男へと話しかけている。いったいなんだというのだ。まったくもって状況が理解できないことにいらだちを禁じ得ない。


その時、ずっと私を見つめていた中央の美女が突如私の方へ向かって歩幅を近づけてきた。後ろの男達が何かを叫んでいるが気にした風もなくついと私の目の前までくると何本もの細い金の輪がはまった腕を上げ、私のおとがいを優しくつかみ上げた。美しい翠の瞳に自分が映る。


「ἐξοὗδὴτὰπρῶταδιαστήτηνἐρίσαντε」


いや、だから・・・わからないんだって。困った顔を見せると美女は優雅に微笑みぎゅっと私を抱きしめた。暖かい・・。そのまま美女は私の手を引っ張って歩き出した。どうしよう・・・?まあ危険な感じはしないしそのままついていって状況を知るというのも手だろう。どうやらこの美女はある程度の権力者であることが、言葉はわからないが、彼らのやり取りを見ていると察せられる。


緑の楽園・・と一瞬思ったほどに此処は緑が満ちあふれていた。そう、まるで現実のものでは無いように。でもこれは人工的なものだ。先ほどまで私が寝ていた場所は沢山の装飾が施された神殿のようだった。彼らが入ってきた扉の向こうには違った風景が広がっているのだろうか? 

私は不謹慎かもしれないが何処かで自分の置かれた状況を楽しんでいる自分を笑いつつ、扉の向こうへと一歩を踏み出した。


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