Side 千早 ~手がかり3~
目覚める・・・・・
徐々に金縛りのようにこわばった体から力が抜けていく感覚はいつもの予知夢から目が覚めるときのそれだ。
ドキドキと脈打つ心臓の音を聞きながら静かに深く息を吸い込んで吐きだした。
ゆっくりと身を起こそうと動かした指先に何かが当たった。眠っていた寝台の上に起き上がり、まだ薄暗い部屋の中で手探りでその「もの」を掴み部屋の明かりを付けた。
大人の手のひらに収まるぐらいの大きさの包みを開くと奇妙な薬草らしき草の入ったいくつかの小袋と樹脂で固められているツンとした香りのお香らしきものが入っており、小さなラベルには見たことのない文字が書かれている。
「やっぱり夢じゃない・・・姉さんはあの世界にいるんだ」不思議な異界で出会った少女に託された薬草らしきものを一本引き抜いて匂いを嗅ぐ。「うえっ・・臭い・・どうやって使うんだろう・・薬草だから一応食べれるんだよね・・・正直食べたくはないけど・・後でばあちゃん達に聞いてみるか。」
千早は足早に階下に降りると祖母と両親を起こした。白々と夜が明ける頃には、家族一同、居間に集まっていた。最初に口を開いたのは父だった。
「さて・・千早君。桜華さんの手がかりが判ったということだけど詳細を教えてくれるかい?」
父と母、そして祖母も朝早くから起こされて疲れているであろうに、自分の予知夢を信頼してくれていることに感謝を覚えながら千早は語りだした。「うん、父さん、まずはこれを見てほしい」そういって差し出したのは架の世界より持ち帰った薬草の袋だ。
それぞれが手にとり興味深そうに見ていたが、父と母が『あっ』と同時に声をあげる。
「あなたっ!これって」
「うん、諒子さん、間違いない!これは・・・古代アトランティス文字だよ!千早君、これを一体どこから手に入れたんだい?!」
「うん、まずは順を追って話すからお父さん、ちょっとトーンダウンして・・・。いくら神社でご近所様から離れてるといっても・・早朝祈願に来る人もいるんだから、ちょっと迷惑だよ・・」目を輝かせて続きを急かす父親に苦笑しながら千早は自分の身に起きた不思議な体験について語っていった。
「ふむ、なるほど・・・じゃあ、桜華さんは、その世界の王様?らしき人の嫁候補になっている・・・・と・・・・うっ!諒子さ~ん!どうしよう!僕達の娘がもう嫁に行ってしまうなんてっ!ああ、結婚式とかどうするんだろう!あ、その前に僕が「お父さん・・娘さんを」とか言われてしまうのかっ?!」
「落ち着きなさいっ」ばしっとイイ音がして父の頭がはたかれた。
「ううっ・・・諒子さん・・・地味にイタイです・・・」ぎろっと睨まれた父がちじこまった。なんというか・・・息子としても斜め向こうの父の反応についていけずにいる。
「まったく・・・、それで千早、桜華の居場所は分かったとしてもどうやってソコに行くの?結婚も何もまだあの子学生だし、とりあえず合流して会って話さなくちゃ何も決められないでしょ!」とまた何処かずれた発言をする母にそれまでずっと無言で話を聞いていた祖母がすくっと立ち上がった。
「ついてきんしゃい」さかさかと部屋を出て行く祖母に僕達は顔を見合わせてついて行った。
神社の境内を回り、聖所を開いて中へと入っていく。そして迷うことなくその向こうの至聖所へ繋がる扉を開いた。
「ば・・・ばあちゃん?」
「お母さん?!」
「・・入れ」
「いや、でも至聖所には当主以外入れないんじゃ」
「良いから入れ・・そろそろ時が来たようじゃ。お前たちにもそろそろ真実を教えるときがきたようじゃからな」
促されるまま一歩至聖所に踏み込んだそこは、流石聖域と呼ぶに相応しい清涼な気に満ちた部屋だった。部屋の奥の神棚には、この神社の御神体が祭られている。
祖母は神棚の手前まで行くと一礼し、ご神体を手に取ると、シャランと清涼な鈴の音が響いた。祖母はそれを静かに僕に手渡した。古い手鏡のようなそれを手に取った時、僕の中に何かの思念が流れ込んできた。
<<アルティマイナの末よ・・・鍵を探しなさい・・・約束の証が導かれ架の地点は繋がれた・・・もう2つの鍵を探すのです>>
「アルティマイナの末・・? 鍵・・・を探す?」
「うむ・・・やはりこれ一つでは足りんか・・」祖母はそうつぶやくと祭壇にご神体を戻したのち、神棚の下段の引き出しから一枚の古い地図と1通の封書を取り出してきた。
「これはわしの母上がお前たち双子が生まれたその日にしたため、時が来たら渡すようにと言われていたものだ。桜華がこうなることも、母上は知っていらしたのかもしれん・・千早、読んでみなさい」
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千早へ
運命の双子達よ――
これを読んでいる頃には其方の魂の片割れは架の地へと導かれていることだろう
お前たち二人は響きあい繋がるもの――それぞれが無くてはならない使命を負っている
其方たちが生まれた日、私は祖先の宿願が果たされる夢を見た――
アトランティス最後の大巫女が大神へ願った望みが成就する時が来たのだ
だがその道は困難に満ちている―-
まずは鍵を探しなさい
三種の神器の手鏡はこの社に、後二つの神器は剣璽と杯
大巫女アルティマイナに仕えた二人の神官が他の神器を預かっている
一つは地図に記がつけてあるある戸隠村に、もう一つは行方不明となっていますが
二つの神器が揃う時、三つ目の鍵の手がかりが開けるでしょう
お前たち二人の行く末に大神のご加護があらんことを――
そして、架の地で分かたれた同胞の助けとならんことを
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