至聖所にて
済みません。ものごっつい遅れてしまいました。しばらく母の病気の為、実家に帰っていたので。またゆっくりですがupしていきます。
目を覚ますとそこには長い間見慣れた天井があった。去年の夏に千早と行ったプラネタリウムで買った光る星のちらばる自室の天井。何度もゆめに見た自分の家・・。ああ、帰ってきたの?私・・・?
次第に覚醒する意識に反してだが、違和感を覚える。違う・・・やっぱりこれはゆめなんだと。でもゆめでも良い、願えるのならば一目でも懐かしい家族の姿が見たい。と、まるでその思いに答えるかのように桜華は自室のドアをすり抜けた。隣は弟千早の部屋だ。また何の障害もなく、するっと部屋に入ると桜華はベットの上で眠る弟の側までやってきた。小さく声をかけてみるが、気配に聡い弟はまるで昏睡しているかのように身じろぎ一つせず眠っている。
「千早・・・起きて?早く私を迎えに来て・・・」そういいつつ弟の額に手を当ててみるが先ほどの扉と同じくすり抜けるだけだった。
そのとき、微かに桜華の耳に聞こえてきた音があった。何かに引き寄せられるようにその音を頼りに進んで行くと其処は神社の本殿の中だった。本殿の中には、聖所と至聖所と呼ばれる部屋に別れており、その微かな音は至聖所の扉の奥から聞こえてきた。
至聖所の中には遥か昔から東紀神社の御神体が祭られているのだが、至聖所の中に入れるのは、宮司のみであり、今は祖母のみがその資格を持つ。だが数年前、15になった年から年に一度、次代の宮司となる千早も祖母と一緒にこの至聖所の中に入ることを許されていた。
だが、資格のない桜華は聖所には幾度か入った事はあるが、その奥にある至聖所には一度も足を踏み入れた事はなかった。だが気になる音色はその至聖所の中から聞こえてくるのだ。
普段ならば決して近づくことのない至聖所に、だが、桜華は引き寄せられるように進んでいった。手を触れてもいないのに、まるで迎え入れるようにその扉が中から開く。
果たして桜華が見たものは祭壇の上に掲げられた不思議な文様の描かれた幾つもの鈴の束が垂れ下がる手鏡のようなものだった。それが誰の手も触れていないというのに、シャンシャンと小さな幾つもの音が重なり合い、揺れている。そうだ、何処かで聞いた事があると思ったこの音はあの雨の日に聞いた鈴の音と同じものだった。
思わず手を伸ばしそれに触れようとした所で桜華の意識は途絶えた。
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東紀の宮司である、東紀 総子はふと異変を感じ、起き上がると襖を明け外を伺った。薄闇の中目を凝らすと
本殿がにわかに光っている。総子は急いで上着を纏うと、本殿へ小走りに向かった。
案の定、普段は固く閉ざされているはずの聖所、そしてその奥にある至聖所の扉が開かれており、光は其処から
発せられ、それと同時に小さな鈴の音も響いていた。
「ふむ・・・・。これはお導きかのう?」ゆっくりと至聖所の中へ入って行くと其処には淡い光を放つ御神体があった。しばらくすると光はだんだんとその輝きを無くし、鈴の音もぴたりと止んでしまった。
総子はしばらくその場でずっと考え込んでいたが、そのうち何か納得したように、御神体に向かい一礼すると何事も無かったかの様に、母屋へと戻っていった。