禁忌の娘
禁忌の力をもった娘として俺の娘は周囲から厭われた。王宮の奥深くに隠される様に置かれた娘は「隠し姫」と呼ばれる様になり、様々な噂がされるようになった。姉から少し聞いているとは思うが、アンブロシアの存在が守りの力を弱めるというのは本当だが、それは表向きの理由にしか過ぎない。本当の禁忌とされる理由は、消し去る力だ。
・・・・・意味が分からないと言った様子だな、無理も無い。これから説明しよう。
アンブロシアが産まれてから数日、部屋の中にあったいくつかの小物がこつ然と姿を消した。最初は盗られたと思い捜査をしたが、無くなったものはこれといって別にそれほど価値のあるものではなく、売るのなら、無くなったものよりもよほど価値のあるものがその部屋の中にあった。だからその時はそれほど気にもしなかったのだが、次にアンブロシアが寝ていたベビーベット、大型の衣装棚などが消えたとき、疑問が持ち上がって来た。
杞憂であってほしいと願っていた私たちの望みもむなしく、産まれて3ヶ月にもならぬ子供はその力を発揮し、ついには部屋ごとその存在を消してしまった。
これを脅威に思わぬ人間は少ないだろう。アンブロシアの力が分かってすぐに、その力を抑えるための呪具を身につけさせたが、彼女の力はこれまでに報告されてきた他のケースと比べても段違いに強いものだった。他のケースでは物以外にもその者の近くにいた人間までも消えたケースが報告されている。
産まれて3ヶ月にして部屋ごとその存在を消してしまう能力を持った娘を恐れ会議にてほとんど幽閉と言っても良い可決がなされたときにも俺は無力な自分を呪った。その後、アンブロシアを狙った暗殺から身を挺して守ったディオルカが亡くなり、俺は余計に自分の無力さを嘆いたが、だが嘆いていても現状が変わる訳でもない。俺はすぐさま医学や能力者達の専門のチームを作らせこの奇妙な力の解明にあたらせた。
確かにこれ迄に少しずつ分かって来た事もあるが、依然アンブロシアは封じの呪具なしでは手当たり次第に周りの物を消し去ってしまう事に代わりはなく、その力は年々強くなっていっている。
ディオルカとの約束のためにも、どうにかしたいと思っているが近年また新たな問題が浮上してきた。
それが隣国達との問題だ。なかなか開国を認めない王に痺れを切らして近年、大掛かりな攻撃を仕掛けてくることが多くなって来たのだ。それだけでなく、アンブロシアの力が強くなるにつれ、父の力は弱まって行き丁度国との境目に位置する北の領土から、守りの障壁の隙をついて他の大陸から出入りしているものが増え、色々と問題が起き始めている。
俺は実際の所、父王や古くからの重鎮達のようにまったく国交を結ばないという姿勢には反対している。ここ数十年の出産率を考えても新しい血が必要だ。まだ民間レベルではそこまで影響はでていないが、血族婚を繰り返す王族や貴族は特に言う迄もなく・・・。だが、確かに開国にはいくつかの問題点も多くあるのは事実だ。
彼らは我らの知識だけでなく全てを欲している。特に貪欲な国が北に位置するソルディンというここ200年ぐらいに出来た新興国だ。この話はまた次回ゆっくりと話そう。お前の意見も聞きたい。
なんにしろ俺は次期このアルティマイナの王として国民全てを守る義務がある。だが一人の父としてアンブロシアの幸せを願う心もある。しかし、今のままもっとアンブロシアの力が強くなり、それが私たちのコントロールできないほどのものになったとしたら、私は国を守る為に決断しなければ行けない・・それがディオルカとの約束を破る事になっても。
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思いもよらない王子の過去と今抱える深刻な悩みを聞き、桜華はとっさに言葉がでてこなかった。
つまり、このままアンブロシアの力が解明されない限り、近い将来もしかしたら王子は自分の子を殺さなくてはならない状況に陥る可能性があると言う事を理解したからだ。
そんな事は・・・・許されない、いや、許したくない。だが、じゃあどうするのだと問われても今の桜華は王子同様何もすることができないのだ。それでも何か、どうにかすることができないのかと、王子と別れたあと、桜華は部屋に籠り思考を続けていた。
もしかしたら、古代の書に何かヒントが隠されているかもしれないと考えつき、明け方まで読みふけっていた桜華は疲れて眠りにつき、そしてあるゆめを見たのだった。