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過去の残照2

またまた遅くなりまして済みません

「ではどうしてっ?!」

遮る様に彼女の声が静かに辺りを包み込んだ。

「理由はこれです。」そういって彼女が差し出したものに見覚えがあった。つい先日自身の成人の儀に合わせて対象となりうる子女の健康検査が行われていた事は知っている。仮にも王家の相手となるべき者が性病ややっかいな病気を抱えていないかなどを検査するものだった。

差し出された検査結果らしきデータをおずおずと手にとる。ああ、そうだ、俺はこのときに既に嫌な予感がしていたんだ。

読み進むうちに自分でも表情が固くなっていったのが分かった。

「どうして・・・こんな・・?いや、だがこの病気は・・・。」


「・・・王子もご存知の通り、この病気は他者に移るような物ではありません。ですが確実に私の命を蝕んでいる事は確かです。あと、良くて数年しか生きられないと知ったとき、私は決心したのです。

私は今迄父の顔色を伺いながら生きてきました。父に言われるまでもなく、私は貴方をお慕いしております。ですがもしこんなことでも無ければ私は一生貴方に想いを伝える事無くいつかはいずれかの方の元へと輿していた事でしょう。貴方は私にとって太陽のような方でした。見ているだけで幸せだったのです。

ですがあと数年しか生きられないのであれば、私は欲がでたのです・・・。一度で良いから貴方の瞳に映る自分を見てみたいと。


もちろんそれだけならば、別に添いぶしにこだわる必要はありません。王子はお優しい方ですから私が望めば抱いて頂けたでしょう・・? ですが、それと同時に両親の事も考えました。あんな親ですが私にとっては大事な父親です。最後の最後ぐらい父の希望に添えるならと考えました。

ですから、私は王子がお優しくこんなはした女の戯言を無下になさる事ができないのを知っていて申し上げているのです。最低な願いだとは自覚していますが、どうか添いぶしの一夜に私を選んでは頂けないでしょうか。」

そこまで一気に言いきってディオルカはじっとアクロティヌスの目を見つめた。

数分の沈黙の後、アクロティヌスは大きく息を吐いて言った。

「分かった。そのように取りはかろう。」


「ありがとうございます。」そう言って微笑んだ彼女の笑みはとても静かで美しかった。


後日俺は、添いぶしの相手にディオルカを指名し、通達があった、ディオルカの実家は思いがけぬ幸運に舞い上がったと聞く。通常、添いぶしの相手が既婚者でなかった場合には将来的に王妃か則妃に選ばれる確率が高かったからだ。だが、彼女がそうならないことは俺と彼女自身だけが知っていたのだろう。


当日、俺はできるだけ体に負担をかけないように彼女を抱いた。普通であれば必ず避妊をするのが前提になっていたが、お互い言葉もなく自然に俺は彼女の中で果てた。確かに軽はずみな行動だったとののしられても仕方がないかもしれない。だが、まさか本当に彼女が妊娠するとは思わなかったんだ。


数ヶ月後、懐妊の話を聞いたときにはまさかと思ったが、DNAの結果でも間違いなく、俺の実子だと言う事が証明され、ディオルカの父親は気も狂わんばかりに喜んだ。だがそのときに彼女の病気も家族の知る所となり、気まずい事となったが、それでも俺もできる限り最高の医師を看護にあたらせ、万全の用意で出産を支持した。


そして産まれた子は・・禁忌の力を持つ忌子だったのだ。何度自分を呪ったかわからない。産まれてすぐに不安定な力を発揮した我が子は混乱と波乱を呼んだ。もちろんアンブロシアが悪い訳ではない。だが、次期王の子とはいえ、禁忌の力を宿した娘を殺すべきだと言う声も多くあり、結局父王の決定により、幾重にも幼子に封印を掛け、王宮の奥深くに閉じ込めるという事で落ち着いた。


ディオルカに・・・なんと声をかけて良いか分からなかった俺は最低な父親だった。だが、決議が決まり、赤子を移送させる途中にアンブロシアが襲われ、子をかばってディオルカが亡くなった。彼女の最後の言葉はこんな頼りない俺を責めるものではなく、ただ、アンブロシアを頼みますとの一言だった。


ディオルカの病気は今でいう癌のようなものと考えてください。

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