過去の残照1
ものすごく遅くなってしまって申し訳ないです、母が病気で実家に帰っていたりしたので。これからまた定期的に戻るのでヨロシクお願いします。
アクロティヌスはゆっくりと語りだした。
「オウラニアやジュニュファスらが私の幼馴染みであったようにアンブロシアの母であったディオルカもその中の一人だった。王の子供達には幼い頃より有力な貴族や豪族の娘息子が遊び相手、ひいては成長してからはまた良き競争相手にもなり、優秀なものはそれから次代を支える王の従者、側室などになる場合が多い。
だがディオルカは大人しくあまり目立たぬ女だった。あまり人前に出る事を好まない、私たちが遊んでいる時もいつも一歩外から微笑みながら見ている。同世代のはずなのに何処か大人びた雰囲気だった。特別仲が良い訳でも悪い訳でもなく、ただいつも其処にいるのが普通だった。だからディオルカに特別な感情を抱いていた訳ではない。少なくともあのとき迄は・・」
「何があったのですか?」
「あれは私が成人の儀を迎える為の相手を選んでいた時だった。うん?ああ、そうだ。さすがに王になるものがやり方も知らないという訳にも行かないからな。王族の男性はすべて添いぶしの相手から色々と教わる事になる。大抵は年上の女官やその道の手だれが相手になるか、もしくは貴族の子女だ。本人の希望があれば相手を指名することもできる。俺の場合がそうだったように・・。
俺はすでに14の頃にもう女を知っていたから、はっきりいって添いぶしの相手は誰でも良かった。今更教えてもらうような事は無かったしな。
何だ・・・その軽蔑したような目つきは。まあいい・・・。どちらにしろ、お前には全てを話すつもりでいるのだから。
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成人の儀を迎える少し前のある晩、突如ディオルカが私を訪ねて来た。今迄一度として、ディオルカが私に直接何かを言って来た事はなかったし、ましてや夜に訪ねてくるなど無かった。いかにも思い詰めた様子の彼女を見て何かがあったに違いないと思い、とりあえず部屋の中に入れた。
招き入れたものの、他の幼馴染み達とは勝手が違い、小さく震えるディオルカに何と声をかけるべきか戸惑っていたのだが、しばらくの無言の後、ディオルカは私の目を見つめ言った。
『アクロティヌス王子、どうか添いぶしの相手に私を選んではくれませんか?』
驚いたと言っても良い・・私の知る限り、彼女はそういった事柄を口にするようなタイプの者では無かったからだ。と同時にひとつの忌々しい仮説が頭の中をよぎった。
『父親に言われたのか?俺の添いぶしになるようにと?』
自分の声が嫌悪を含んだ冷たいものであった事は否めない。成人の儀を迎えるといってもまだまだ幼い部分も多かった。ディオルカの父親はもともと中級貴族の次男として生まれ、長男が家を継ぎ、出て行くと、そのたぐいまれな商才で財を築き上げた男だが、野心も大きく、金の力で身分の良い上流貴族の娘を娶り、産まれたディオルカを早々に自分の遊び相手として本宮にあげてきた。だが娘はそんな野心ある父の娘とは思えぬほど控えめで、幾度となく父親に呼びつけられてはもっと王子のお心にかなう様にと言われていると、他の幼馴染みから聞いていた。だが、実際ディオルカの父の意思に反して大人しい彼女を他の図々しい女達よりは好意的に見ていたのだ。自分より一つ上の彼女を時には毛色の違った姉の様に感じていたのかもしれない。
そんな彼女が自分に向かって言った事はそれなりにショックだったのだろう、問いつめる俺に彼女はますます小ウサギの様に怯え青ざめながらだがはっきりと首を振り言った。
『いいえ、違います。これは私の父も預かり知らぬ事です。父は私のようなものが王子の相手にはならないだろうと最初から諦めていましたから。』確かに普通の慣例から行くと、添いぶしの相手はそれなりの経験を積んだ女が望ましい。だが自分がすでに幾度も様々な女達と契りを交わしているのは知られた事実だ。別に相手が処女であろうが、手管であろうが気にする事はない。だが、ある程度女を知った王子がわざわざディオルカのような大人しい娘を選ぶ可能性は低いと踏んでいたのだろう、確かに今の今まではそうだった。
姉の様に慕っていたディオルカを相手に選ぶなど露程も考えた事はなかったのだ。
千早のターンが少し伸びそうです。謎のディオルカ編です。