平行を辿る押し問答2
遅くなってしまいました。すみませんー。
「千早は絶対に来てくれるわ!」
「だからどういう根拠があってそう言いきれるのかと聞いているんだ。大体遠い祖先のような時渡りの術を持たない者がこの異世界へ来れる確率は低いだろう。それともお前の弟はそこまで能力の高い者なのか?」そういいながら油断なく彼は探りを入れるかのように聞いてくる。その意味も分からず私は声を荒げていた。
「知らないわよ、そんな能力とかって。大体私は普通に地球で生きて来た一般人なんだから。千早は確かに私と違って希有な力を持っているけど・・・でもそんな事関係ない、千早は絶対に私を見つけて来てくれるはず!なんでかなんてわからないけど、絶対そうなの。」桜華にも自分の言に根拠がない事は十分に分かっている。それでも千早が自分を見つけて来てくれるという絶対的な自信は揺らぐ事なく根底にあった。
「お前が一般人とは言いがたいだろう・・・?」呆れたように王子が呟いた。
秘密裏に桜華につかせている陰の者からきいた限りにおいても、なんらかの能力を有していると言いきれる。大体毎日出される食卓で、毒の入ったものだけを器用にのけて食べるなど神業だ。しかも、使われた毒はすべて無味無臭の猛毒性の高い物ばかり、中には口にしたら最後、廃人生活がまっている中毒性の高い麻薬まで含まれていたという。
まあ、弟が来ようと来れまいが、桜華を妃に据えるという己の意思は変わらない。当初、姉のティターニアにくってかかったのが嘘のように今の自分は笑えるぐらい目の前にいるこの不可不思議な女の魅力に捕われてしまっている。
よしんば、本当に弟が来たとしても、もしそれがこの国の役に立つ者であるのならば桜華と同様、逃がしはしない・・・。
その時に浮かべたアクロティヌスの表情はまぎれもなく捕食者のそれであった。だがそれを気づかせぬようにゆっくりと間合いを詰め、少しずつ外堀を埋めて行く事にする。どうやら姉が言っていた通り、恋愛面に関してこの少女はあくまでも疎いらしい。古文の解読を手伝いながら話していた当初、突きつけられた彼女の言葉はとても興味深いものだった。あの時既に自分は彼女に捕われていたのだろう。
<そういえば王子、機会があれば聞いてみたいと思ってたんですが何故、妃選びと同時に側室まで作る必要があるのですか?>
——力のある王族を沢山作る為だ。子を沢山持つ事は王族の勤めでもある。何よりもここ数十年の内に突出した力をもつ王族、貴族の数が大分減って来ていることもある。
<だけど、それでいらぬ争い毎が増えるのは目に見えているでしょう?>
—確かに・・、だがお前は心配しなくても良い。俺はお前一人しか娶るつもりはないし、側室はもつつもりはない。その代わり桜華には必ず幾人かの子を産んでもらう事になるがな。
<は?なんで私?! 冗談はほどほどにしていてください。あー、じゃなくて、それよりも私聞きたい事があるんです。アンブロシア姫の事。詳しくは貴方に聞けってティターニアはそこまで詳しくは教えてくれなかったから。>
—そうだな。確かに今となってはお前には話しておく必要がある。
<???、いや、意味わかんないです。というか、アンブロシアについては色々と気になっているけど,ああ・・でも、いや・・>
目の前でくるくると変わる表情を眺めつつ自分が姉にも伝える事のなかった事実をこの少女には知ってもらいたいという思いが沸き起こるのを、自分自身驚きをもって受け止めていた。
平行を辿る押し問答編が終われば、千早君の方に移ります。