王家の秘密1
桜華がティターニアに連絡を取ってから2日の後、丁度本宮に来る用事ができたというティターニアが桜華の部屋に訪れていた。
「アクロティヌスに呼ばれたのよ。話があるってね。まあ大体何の事かは予想がついているんだけど・・ふふ。でも丁度桜華の事も気になってたしこちらに来られて良かったわ。それよりも桜華、あなたの聞きたい事って何かしら?もしかして弟の事かしら?少しでも興味をもってくれたならこれ以上嬉しい事は無いわ!」相変わらず大輪の薔薇が咲いたような微笑みを浮かべながらティターニアが膝を乗り出してくる。
この二日間、実は桜華の中では結構大きな葛藤を抱えていた。隠し姫のことについて気にはなるものの、妃になるつもりもない、ましてやこちらの世界に長居する気もない一般人が王家の秘密らしきものに関わって良いはずがない・・けれどもそう思うたびに何度も最後にアンブロシアが見せた表情が脳裏を霞めた。それに考古学者を目指す人間としてはやはり好奇心は普通の人より多く、気にしない様にと思っていてもすぐにまた考え込んでしまう自分に白旗を上げ、脳裏の奥底で聞こえる関わってはいけないという声に蓋をしてしまった。
「図書室で2〜3歳の可愛い女の子に出会ったんです。アンブロシアと言う名の・・。」
一瞬目を大きく開きその名を聞いたティターニアは何処か苦しげな表情を浮かべながら小さく息を吐いた。そして全て部屋にいた侍女達を下がらせ、扉に鍵をかけるとゆっくりと桜華の方を振り向いた。
「・・・吃驚したわ。そう、あの子に会ったのね・・・?何か聞いていて?」
「隠し姫・・だと言う事をミルハから少し。もし・・・私が聞いても差し支えの無い事であれば隠し姫というのが一体何なのかを聞いてみたくて。」
「そうね。近い将来あの子の妃となる貴方は知っておくべきかもしれないわね・・。」
いえ、なりませんけど!と心の中で突っ込みつつ、余計な事を言って話をしてくれなくなるよりはと黙って先を促す。
「アンブロシアが私の弟、アクロティヌスの娘だと言う事は聞いているわね?」
「はい。驚きました。こちらの世界での成人が15歳だと聞いていたし、若い年代で結婚している人達が多いんですよね。まあ日本も昔は元服はもっと早かったし、そんなに吃驚することでも無いのかもしれないけど・・。つまり王子殿下が成人したさいにできたお子さんなんですよね? 母親は亡くなったと聞きましたけど・・ 」
「ええ・・。アクロティヌスが成人を迎えた時に添いぶしをした娘、今回の妃候補にもなっているネオラ ニコラコプールプーの姉だったディオルカがアンブロシアの母よ。」
「添いぶし?」
「成人になった暁に契りを結ぶ儀式の事よ。相手は大抵中位から上位の貴族の子女から選ばれるわ。あの子の場合それが幼馴染みのディオルカ、そしてその時に出来た子がアンブロシアだった。」
「そういう事って結構あることなんですか?」
「本来なら添いぶしの儀で子ができることは無いわ。必ず避妊することが前提になっているから。そうでないと余計な波乱を招く事になりかねないし。アクロティヌス・・あの子がどういったつもりで避妊を行わなかったのか、これに関しては何度聞いても口を割らなかった。でも結局それが悲劇に繋がったんだわ。」
「それは、アンブロシア、いえ、シアのお母さんの死に関係してるのですか?」
「結果的に・・そうともいえるし、そうじゃないとも言えるわね。」
「どういうこと?」
「私たちの父である現王には私たち姉弟以外にも沢山の兄弟がいる。それなのに何故あの子が次代の王として選ばれたかわかる?」
「いえ、さっぱり。顔ですか?」我ながら間抜けな答えだと思いつつ聞き返す。顔で選んだのであれば確かに他の追随を許さない美しさだ。
「っぷ。嫌だわ、桜華ったら。それだけでは流石に王には馴れないのよ。この国の王となるものは、国で一番の守りの力をもつ者なの。」
「は・・い?」守りの力とはどういう事なのだろう。第一この世界には地球から移民?してきたアトランティスの民しかいないのではなかったのか?
私の怪訝な表情から読み取ったのだろう、ティターニアが爆弾を落とす。
「気がついたかしら?私たちの祖先がこの世界に来た時、この世界には既に先住民が暮らしていたのよ・・・。」