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プロローグ〜夢の始め〜

東紀 桜華17歳、彼女の朝は毎朝5時半起きの鍛練から始まる。その日も武道の型を一通りやり終え、シャワーを浴びて部屋に戻ろうとすると、隣の部屋のふすまが静かに開いた。

「姉さん」

「千早、どうしたの?まだ寝てなくちゃ駄目よ?熱は下がったの?」

矢継ぎ早に問いかける姉に苦笑しつつ、二卵性の双子の弟である千早はまぶしそうに桜華を見つめた。姉をこんな朝早くから呼び止めた事には意味がある。しかしそれをどう表現して良いのか分からないのだ。


「もしかして・・また夢を見たの?」

「うん」さっきとは違い真剣な表情で姉を見据える。

「それは・・私に関する事?」

「そうだと思うんだけど・・。」


珍しく言葉を濁す弟を促し部屋に入る。初夏とはいえ、まだまだ朝は寒い日が多い。弟は昔から予知夢と呼ばれるであろう類いの夢をたびたび見る事がある。しかもそれらの予知夢は一度として外れた事がない。見るものは家族に関係した物から,果ては世界情勢、災厄迄様々だが、コントロールして見ている訳ではないらしい。

祖母に言わせれば、千早は先祖還りの血を濃く継いでいるようだ。その強すぎる力の為か、同じ双子だと言うのに千早は体が弱い。この神社を継ぐという意味においてはこれほど優秀な跡継ぎはいないのだが・・。対する桜華はというと、予知夢を見たりと言う事はいっさい無いが妙に勘の良い所があり、そのおかげで今迄幾度かの危機を乗り越えてきている。


「ほら、カーディガンを羽織って。まだ学校に行く迄少し時間があるからどんな内容だったのか教えて?」

「うん・・それが、なんて言ったらいいのかなあ。姉さんが古代ギリシャで着ていたようなトーガを着て神殿の中にいるんだ。その側に男の僕でも吃驚するような美形の男の人がいて、一瞬ただの夢なのかとも思ったんだけど・・。」とまたもや言葉を濁す。その男がやたらと姉を愛おしげに見ていてむかっ腹が立ったのはあえて言わないでおく。姉は夢の中でも相手を適当にあしらっているような感じだったのでホッとしたのも内緒。僕は筋金入りのシスコンなんだから。かといっってアブノーマルではない。ちゃんと姉を託せる相手がいたら、そのときには、2〜3発殴らせてもらってから譲渡するつもりだ。


「はあ?私が古代ギリシャっぽい洋服をきて・・う〜んコスプレ?何、なんかのドッキリって事?あー、それとも母さん達に何か関係あるのかなあ?何にしても私がそういう格好を好んでするとは思えないんだけど・・。」

「そうだよね・・」

桜華と千早の両親は揃って考古学者だ。1年のうちの半分は世界中を飛び回りやれあそこの遺跡がどうだ、新しい遺跡が見つかったなら諸手をあげて出て行くので、この神社に普段いるのは祖母を含めた3人と、お手伝いにくる鈴代さんぐらいなものだ。


「・・・」

千早は黙って姉の顔を見つめる。姉の桜華は身内の欲目を差し引いても美しい容姿をしている。一度も染めた事のない美しい黒髪と黒目がちで切れ長の大きな瞳、すっと通った鼻筋と、ふっくらと愛らしい唇。病弱な事もあり、なかなか学校にでる回数も多くはないが、校内で密かに桜華のファンクラブが多く存在しているのを知っている。中には邪な思いを抱いて姉に近づく男達もいるが、それらは姉の、自分とは違った危機感からうまく避けられており、よしんば近づいたとしても、数多くの武道を物にしてきた姉の前に無惨に散るばかりだった。しかし今回の夢は・・自分の中でこれは実際に姉の上に起こるであろうと言う事とまたそれが避けがたいものである事が予感・・いや実感として感じる事ができる。


だが、それにしては納得のいかない要素が多かったのが気になる。あの夢でみた神殿や建物、そして人々は作り物の様には思えなかった。映画のロケとも考えたが、姉の性格からして、そんなものに自ら出るとは考えがたい。ではいったい何だというのか・・いくら考えてもあの奇妙な夢の感覚はするりと指の狭間からすり落ちて行く。もしかしたらこれが昔、大祖母様がおっしゃっていた姉の「運命」に関わりのある事なのだろうか?しばらくの間考え込んでいた僕の耳に唐突に言葉がなだれ込む。


「あ、あー、もうこんな時間?!やばい、いかなくちゃ。ね、千早その話は帰ってからゆっくり聞くわ。たぶん、そんなすぐ起こる未来の話って訳でもないんでしょう?じゃ、行ってくるから!」


そういって姉は焦ったように隣の部屋に駆け込んだ。すぐに制服に着替えて鞄をもって家をでていく姉を窓から眺めながら俺はゆっくりと息を吐いた。

そう、確かに僕の見る予知夢は大抵すぐに起こることではない。2〜3日先の事もあれば、1ヶ月、長くて半年ほど先の未来を見る事もある。今回の事も、そうすぐに何かが起こる訳ではないと甘く見ていた事に僕は後から後悔することになる。


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