Side 千早 〜手がかり1〜
今回話の流れ上少し短めです。
「くそっ!」ドンッと東紀家のリビングのテーブルを叩き付けた普段温厚な息子、千早の姿を対面に座る両親は複雑そうな表情で互いを見合わせた。
娘の桜華が謎の失踪をとげて約半年がたつ。もちろん警察にも、誘拐、拉致の可能性も含めて連絡し、しばらくはテレビや新聞でも、謎の失踪事件として報道されていたが、さすがに半年も経つと随分となりを潜めていた。
桜華が消えた当初、千早から国際電話がかかってきた時は、何の冗談かと思ったのだ。夫共々緊急帰国し,すぐさま様々な方面に働きかけて娘の行方を探った。
しかし、まったくと言って良いほど手がかりが見つからないのである。桜華が最後に目撃されているのは夕刻の県立図書館だった。娘に頼んだメールでデータを送ってくれたのが最後だった。
あのとき、資料を頼まなければ桜華が消える事は無かったのかなどと、この半年悩まなかった日はない、だが私たちよりも、息子の千早が一番姉の失踪に心を痛め続けているのは分かっていた。
しかし、桜華が死んだとは家族の誰一人として思ってはいない。ただ、あの子が対処できない何かに巻き込まれたのだと私たちは考えている。
無理をして熱を出しながらでも千早はどうにかして、姉に関する予知夢を見ようとしていたが、もともとそれはコントロールできるものではない。そのいらだちが手に取る様に分かり辛かった。
しばらくの間家族の中に沈黙が訪れていたが、やがて絞り出すように千早が話しだした。
「父さん、母さん・・・これはずっと言おうかどうか迷っていたんだけど、実は、姉さんが失踪する前日に夢を見たんだ。」
「それは・・桜華の予知夢だったのか?」私たちもこれまで一度として外したことの無い自分たちの息子に宿る奇妙な力の事は十分に信頼を置いているので声がうわずる。
「予知夢である事は間違いない・・だけど今まで言わなかったのは、、それがあまりにも常識を超えた夢だったからで。最近になってあの夢が姉さんの失踪に関係しているんじゃないかと疑っているんだ。」
「常識を超えた夢って・・一体どんなものだったの?」
千早はそれからゆっくりと思い出す様に夢の内容を語り始めた。確かにその内容はもし、桜華が失踪していなかったら、笑い出すようなものだ。それはこの現実世界では確かに存在しえない要素が詰まっていた。
「今思えば、あの時見た姉さんは、最後出て行った時よりも随分と髪の毛が伸びていた。それに、見た事も無いような大樹と神殿、奇妙な格好をした人々・・まるで、そう、ファンタジーや異世界のような・・・」
異世界という言葉に皆まさかと思いつつもどこかでしっくりくるような変な感覚に囚われまた口をつぐんだ。
疲れの溜まった私たちは、色んな可能性についてまた明日話し合う事として眠りについたのだが、その晩、千早は新たな手がかりとなる夢を見たのだった。