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純文学/歴史/アクション

Fight! ~格闘家の魂が乗り移った高校生が無双する~

作者: 安藤 翔太
掲載日:2026/06/22

安藤あんどう 翔太しょうたです。

アクションジャンルです。

宜しくお願いします。


いじめ、自殺などの描写もあるので、苦手な方はご注意ください。

 世界総合格闘技選手権決勝。


 四角いリングを取り囲み、数万人の観客が熱狂していた。その中心では、世界最高峰の一戦が繰り広げられている。


 挑戦者テネシー・ケリーは、絶対王者アンディー・モーガンと向かい合っていた。


 第五ラウンド。


 世界王者には、焦りが見え始めていた。


(く……しぶといヤツだ……。だが、このラウンドで終わらせてやる!)


 アンディーが渾身の右ストレートを放つ。


 その拳を受けたかに見えた瞬間、テネシーの身体がゆっくりとリングへ沈んでいく。


 観客席が大きく沸き立った。


 誰もが王者の勝利を確信した──だが、当のアンディーだけは違和感に眉をひそめる。


(ち、違う……俺の拳は、当たっていない……!)


 次の瞬間だった。


 床に手をついたテネシーの身体が独楽のように回転する。鋭く振り抜かれた踵が、弧を描いてアンディーの側頭部を強烈に捉えた。


 ゴッ──。


 鈍い衝撃音がリングに響く。


 アンディーの視界が大きく揺れ、巨体がぐらりと傾いた。そして、そのまま糸が切れた人形のようにリングへ崩れ落ちる。


 一瞬の静寂。


 誰もが何が起きたのか理解できなかった。


 次の瞬間、実況席から絶叫が轟く。


「KOォォォォッ!!」


 会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 テネシーは静かに立ち上がると、高々と拳を掲げ、四方の観客へ応えた。


 新たな世界最強の男が、今この瞬間、誕生したのだ。


(やった! ついに俺は、世界最強の男になったんだ!)



 テネシーが目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。


(……どこだ、ここは?)


『病院だよ』


 頭の中で、突然、少年の声が響く。


「だ、誰だ!?」


『そんなに大きな声を出さないで。ここは病院。僕は兵藤ひょうどう園哉えんや


(ヒョウドウエンヤ……? 変な名前だな。それで、お前はなんで俺の頭の中にいるんだ?)


『逆だよ。あなたが、僕の身体に入り込んでいるんだ』


(……は? 何を言ってる)


 信じられるはずがない。

 だが、その瞬間、テネシーは自分の両手を見下ろした。


 細く白い指。

 頼りない腕。


 世界王者として鍛え上げた自分の肉体ではない。


「……なんだ、これは」


 慌ててベッドを飛び降り、病室の鏡へ駆け寄る。そこに映っていたのは、見覚えのない少年だった。


 青白い顔。

 華奢な体つき。

 どう見ても、自分ではない。


「な、なんじゃこりゃああああっ!!」


 混乱したまま病室を見回していると、壁に掛けられたテレビが点いている。


『続いてのニュースです。世界総合格闘技選手権で劇的なKO勝利を収めたテネシー・ケリー選手が、本日未明、何者かに刃物で刺されました』


「は……!?」


『現在も意識不明の重体です。警察は殺人未遂事件として──』


「……俺だ」


 テネシーは呆然と呟いた。


『テネシー・ケリー……』


 園哉の声が静かに響く。


『肉体が瀕死の状態になったから、あなたの魂だけが僕の身体へ来たんだと思う』


 テネシーは拳を握る。

 しかし、握った拳は驚くほど小さく、頼りない。


(俺は……死んだわけじゃないんだな)


『そうだね。でも、どうしてこうなったのかは僕にも分からない』


 その瞬間だった。

 頭の奥へ大量の映像が流れ込む。


「ぐっ……!」


 学校の教室。

 机を蹴飛ばされる少年。

 弁当を床へ捨てられる。

 体育館の裏で殴られる。

 トイレで頭から水を浴びせられる。


『やめて……』


 園哉の震える声。


『見ないで……』


 だが、記憶は止まらない。


 誰も助けない。

 笑う教師、見て見ぬふりをするクラスメイト。


 そして最後に映ったのは、学校の屋上。

 泣きながら手すりを越える園哉だった。


(……お前、自殺したのか)


『……うん』


 か細い返事。


『もう、疲れちゃったんだ』


 その言葉と同時に、園哉の絶望がテネシーへ流れ込んだ。


 恐怖や悔しさ、誰にも必要とされない孤独。


 胸が締めつけられる。


 世界王者として数え切れない試合を経験してきたテネシーでさえ、思わず歯を食いしばった。


「……許せねぇ」


『え?』


「俺はリングでしか人を殴らねぇ主義だった」


 テネシーはゆっくり立ち上がる。


「だが、人間には殴らなきゃ分からねぇ奴もいる」


 園哉は慌てた。


『無理だよ! あいつら三人いるし!』


「リングでは一人で世界最強だった。たった三人。ウォーミングアップにもならねぇ」


 テネシーは鼻で笑った。



 数日後。


 退院した園哉は、学校へ向かった。

 教室へ入ると、すぐに笑い声が響く。


「おっ、自殺失敗野郎じゃん」

「マジ、死ねばよかったのに」

「今日も飛び降りたらいいんじゃねぇの?」


 三人の男子生徒がニヤニヤ笑いながら近づいてくる。


 園哉の心が震える。


『やっぱり怖い……』


(安心しろ)


 テネシーが静かに答えた。


(今日は俺がいる)


 先頭の男子が胸ぐらを掴もうと右手を伸ばす。


 その瞬間──


 スッ。


 紙一重。テネシーは首をわずかに傾けるだけで手をかわした。


「……え?」


 男子が目を丸くする。


 次の瞬間、テネシーは相手の手首を軽くつかみ、身体を半歩だけ回転。柔道のような最小限の力で重心を崩す。


「うわっ!」


 男子は前のめりに転倒した。


 ドサッ。


 教室が静まり返る。


「て、てめぇ!」


 二人目が殴りかかる。


 右ストレート。


(遅い……)


 世界王者の目には止まって見えた。

 テネシーは半歩踏み込み、拳の軌道を肩で外す。空振りした相手の鳩尾みぞおちへ、短く鋭い掌底。


「ぐえっ!」


 息が詰まり、その場に膝をつく。


 三人目の男子が椅子を振り上げた。


「調子に乗るなぁぁぁっ!」


 金属製の椅子が頭上から振り下ろされようとした、その瞬間──。


 視界がぐらりと揺れた。


「なっ……!?」


 身体の感覚が遠のいていく。


(えっ!? ぼ、僕!?)


 入れ替わった。

 身体の主導権が、園哉へ戻ってしまったのだ。


 椅子が迫る。


(む、無理だよ! できるわけない!)


『落ち着け!』


 テネシーの怒鳴り声が頭の中に響く。


『相手を見ろ! 椅子じゃない! 相手の全体を見るんだ!』


 園哉は反射的に相手を見る。


『今だ! 右へ半歩!』


 テネシーの言葉が園哉の身体を動かした。


 ブォンッ!


 椅子が鼻先をかすめ、空を切る。


「くっ!」


 男子の顔に驚きが走る。


『いいぞ! 次は近づけ!』


(ち、近づくなんて……む、無理だよ!)


『いいから行け! 相手は振り切った。今は隙だらけだ!』


 園哉は恐る恐る一歩踏み込む。

 男子は慌てて椅子を持ち直そうとする。


(鳩尾に手を当てろ! 拳じゃない! 掌だ!)


 園哉は震える掌を相手の鳩尾へ押し出した。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 男子の息が詰まる。


『まだ終わってない! 右手引いて、左肩を押せ!』


(こ、こう!?)


 右手を引きを左肩を押すと、男子は足をもつれさせた。


 ドサッ!


 床へ転がる。


 静まり返る教室。


 園哉は自分の両手を見つめた。


(ぼ、僕が倒した?)


『ああ……俺はアドバイスをしただけだ。お前がコイツを倒したんだ』


 テネシーの声は力強い。

 園哉は呆然と三人を見つめる。


 今まで何度殴られても、抵抗すらできなかった相手が、床に倒れている。


『覚えておけ──』


 テネシーは静かに言った。


『強さってのは、筋肉じゃない。一歩踏み出す勇気だ』


 園哉の胸の奥で、何かが少しだけ変わり始めていた。



 五年後。


「さあ、今年の世界総合格闘技選手権も、いよいよ決勝戦! それでは、両選手の入場です!」


 実況の興奮した声が、超満員のアリーナに響き渡る。大歓声の中、花道の両端から二人の格闘家が姿を現した。


 一人は、世界に君臨し続ける絶対王者──テネシー・ケリー。

 そしてもう一人は、日本人初の世界王者を目指す挑戦者──兵藤園哉。


 二人はリングの中央へ歩み寄る。


 視線を交わす。だが、言葉はない。

 それでも互いの口元には、自然と笑みが浮かんでいた。


 あの日、運命によって導かれた二人。

 今は、お互いに格闘家として、この舞台で拳を交える。


 レフリーが二人の間に立ち、開始を告げる。


「Fight!」


 世界中が見守る中、二人は同時に一歩を踏み出した。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
アクション、いいですね〜! 二人の動きも読んでて楽しいですし、お話の流れも胸が熱くなる展開、さすがだなと思いました!最後のシーンとかすごく好きです! ただ、四角いリングということは、RIZINあたりな…
 テネシーと園哉、中盤で二人の絆にほんわり心が温まり、その後の展開にギュッと胸が熱くなりました。こういう展開、本当に大好きです。  一方、思うことが一つありまして。 「殴らなければならない奴は三人、…
ちょっと総合格闘技(MMA)ファンの私からすると「世界選手権」というものには、違和感を覚えます。MMAは打投極で、早くても3か月はインターバルを置いてのトーナメントとなるため、選手権開催にするのは難し…
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