08
どやどやとクラスメートが入ってきた。
その後すぐ、チャイムがなる。
「嘘!?授業終わっちゃった!?」
「……みたい」
彼女は歯の間から息を吐き、「シューッ」という音を立てた。
その時、僕の視界の隅に赤い「ボール」が入り、咄嗟に身をかがめた。
「バシャ!」と音が鳴り、今度は窓に水風船が当たった。
草薙が感心したように言った。
「……思ったんだけど、タケって反射神経良いよね」
答える前に時田が掴みかかってきた。
「まぁ~だ懲りねぇのか!?てめぇがよけると、後ろの人とか物が被害を受けんだよ!」
「そもそも、時田が投げなきゃ……ウ!!」
再び、彼の右拳が腹にめり込んだ。
そこを押さえて膝をついた僕の頭上に、何かが差し出された。
「……?」
「三度目の正直。爆弾、投……」
「やめて!」
草薙が時田に怒鳴った。
そして、彼と僕の間に入り込もうとした。
「……どけよ」
「ダメ、やらせない」
「ジャージまで真っ赤にしたいのかよ?……って武のじゃねぇか」
時田が意地悪く笑った。
「武、後でその服嘗め回す気か?このド変態が」
刹那、草薙が時田の頬を張り飛ばそうとした。
彼はそれを軽くかわし、再び僕めがけて水風船を投げた。
しかし、体勢が崩れていたせいか、それは僕を掠めて通り過ぎ、窓を直撃する。
「こらぁ!何やってんだ!?」
ちょうどその時、数学教師が教室に入ってきて怒鳴った。
「誰だ!?やったのは!?」
教師は、窓の一番近くにいた僕を睨んでいる。
時田はその視線を追い、ニンマリ笑った。
(……おいおい……)
「コイツです」
嫌な予感は的中する。
時田は躊躇いもなく僕を指差した。
そして、教師もそれを全面的に信じた。
「斎藤!拭け!」
「……はい」
「タケ!?」
「……無駄だよ」
僕は溜息をつき、雑巾を取りに行った。
時田のニヤついた顔が腹立たしかった。
でも目を伏せ、黙って教室を出る。
嘲りの視線が多数。憐れみが少し。
そして怒りが、教師と、もう一人。
草薙がこっちを睨んでいた。