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二人は仲良さげに言い争いながら、歩いていった。
最後に角を曲がっていこうとする時に、まったく同じタイミングで二人ともが僕の方を振り向いたので、僕が笑いながら敬礼すると、やはり二人ともが笑って敬礼を返してくれた。
一体どういう人達なんだろう。
悪い人ではなさそうだったが、その表現を聞く度に僕は「悪人面した悪人より、善人面した悪人の方が恐ろしいだろ」と思う。
まぁそんなどうでもいい話はともかく、彼らは妙な雰囲気を持っていた。
まるですべてを知っているかのようだった。
僕のことも、ネモのことも。
もちろん、ただそう感じただけであるため、なんの根拠も示すことはできないのだが。
彼らが見えなくなってからもとのガードレールに腰かけた僕の耳に、最後のやりとりがこだました。
―――君は生きていけるよね?―――
―――……はい―――
迷いはあっても、嘘はなかった。
僕は生きていく。
生きていかなきゃならない。
だからこそ、まだ帰りたくなかった。
現実に。
その流れの中に。
僕は何も考えず、ただそこにいた。
時間がじわりじわりと流れていく。
歩き出すきっかけを待っていたのかもしれない。
どの道生きなければならないのだということを、僕は知っているのだから。
ふと違和感を感じ、僕は右の手のひらに目をやった。
傷がある。
あぁそうか、と思った。
ネモと最後に話した時に、僕が缶を握りつぶして作った傷だ。
爪でつつくと、チクリと痛かった。
さっきの痛みもこれだったらしい。
こういうことが現実の証拠なんて皮肉な話だな、と思った。
僕はふと気がつき、頬に手を当てた。
そういえば、何の痕もない。
腫れはおろか、ほんの少しの痛みすら残っていない。
馬鹿な。
時田と戦ったのは昨日の話だ。
あれほど痛めつけられて、無傷ですむはずがない。
いや、待て。
ネモが言ってたじゃないか。
「全部夢なんだ」と。
あれ? 待てよ?
でも、何故だかそれが夢じゃなくなったわけで―――。
あれ? 結局、どうなるんだ?
どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが―――?
まさか。
僕は猛烈に嫌な予感がした。