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僕はいつか来た白い闇の中を、多分進んでいた。
相変わらず何も見えず、前後左右の感覚はない。
僕は身体の感覚を探そうとして、すぐに諦めた。
自分の状況を思い出したのだ。
これが死ぬということなのか?
まぁ「今まで死んだことがなかったから良く分からない」などという冗談は置いておいて、何か違う気がした。
まさか、これが永遠に続くわけじゃないだろうな、とそんな妙な不安もあったが、違和感はそういうところから来ているのでもなさそうだった。
ともかく、僕の思考が勝手に人生の反省を始め、それに無理に付き合わされるようにして僕も僕を振り返ることになった。
おおむね僕が考えて来た通りだ。
僕は親に逆らえなかったせいで間違った場所に迷いこみ、追い込まれ、最後に多少その境遇に抗い、何てことのない人生を締めくくったのだ。
自分で言うのも変だが、僕はそれなりに頑張ったと思う。
善悪勝敗はともかく僕は時田に立ち向かったのだし、優からも逃げなかった。
そう僕は逃げなかった。
ただ、自分の親を除いて誰からも。
何故、と今になって思う。
そもそもの始まりは親たちが決めた道を歩かされていた、ということじゃないか。
逃げるべきじゃなかった。
どうせ最後だったのだから。
それにしても、何故僕は抗わなかったのだろう。
もっと前、ネモが来るよりずっと前のあの毎日の中で。
奪われた舵を、何故そう簡単に諦めてしまえたのだろう。
僕が僕の道を歩めるように、何故必死で努力しなかったのだろう。
両親の望む僕は僕ではなかったというのに。
いや。
もしかするとそれは違うのかもしれない。
結局のところ、最後にそれを選んだのは確かに僕なのだから。
僕は自分の選択ではないんだと自分に言い聞かせ、責任を違う誰かに押してけようとしてきただけだ。
そうだ。
すべては僕のせいでもあるのだ。
「選ばない」という選択肢を選んだ僕の。
他の誰でもなく、自分自身から逃げていた僕の。
僕は泣きたいほどの気持ちになり、唇を噛み締めた。
え、唇?
僕の右手が僕の顔に触れた。
何も見えないが、確かに身体の感覚がある。
その時、真っ白だった世界が唐突に暗転し、すべてが闇に包まれた。
僕は自分の身体が落ちていくのを感じた。
どこに向かっているのだろう。
いや、なんでもいい。
なんでもいいから、もう、逃げるな。
僕は自分にそう言い聞かせた。