06
昨日と同じようにうつむいたまま電車に揺られ、暗い顔で学校までたどり着いた。
校長も昨日と同じ場所に同じ表情―――自分が世界で一番偉いと思っているような顔―――で立っている。
まるで変わらない風景。
一歩進んで一歩下がる。
後一歩違う方向に動ければ、それが後退であったとしても、無限ループの今よりはマシだろう。
僕は校長のすぐ横をすり抜けた。
教室までの廊下を歩いていると、自分のクラスからニヤついている男子生徒が覗いているのが見えた。
彼らは僕の姿を見つけると、こっちを見ながら教室に入っていった。
嫌な予感がした。
「……タケ」
後ろに草薙が立っていた。
「おっす」
「……おっす」
目が合わなかった。
教室のドアを開けた瞬間だった。
「食らえ!!!」
声と同時に緑色のボールらしきものが顔めがけて飛んできた。
僕はそれをよけて「 し ま っ た 」。
「うわ!!」バシャ!!
後ろで声がした。
(やば……)
「ボール」が草薙に直撃したようだ。
「悪い……」
振り返り、もっとひどいものが当ったことが分かった。
絵の具入りの水風船だ。
赤い水が、彼女の顔から滴っている。
制服にも染みが広がっていた。
「……!!……」
彼女が泣きそうになっていた。
「草薙……」
いきなり肩をつかまれ、黒板のほうに押しやられた。
「ごめん、草薙さん。この馬鹿がよけるから……」
時田は僕を突き飛ばし、僕は頭から黒板に突っ込んだ。
「……つう……!!」
世界がぐるぐる回っているように感じた。
両手を突いて四つんばいになっているのに、まだ倒れそうになる。
と、目の前に影がさした。
見上げると、時田が立っていた。
「謝れよ、草薙さんに……!!」
「!!」
彼が僕の左手を踏みつけた。
「ちょっと!やめてよ!!」
笑い声の中、「すごい姿」の草薙が時田を押しのけようとした。
「草薙さん。早く洗いに行かないと大変なことになるよ」
時田は全体重をかけ、足をぐりぐりさせながら笑った。
食いしばった歯と歯の間から、呻き声が漏れた。
「やめてってば!」
そこに担任が入ってきた。
そして草薙を見て、目を見開いた。
「……草薙!?」
時田はさっと僕から離れた。
草薙は鼻をすすった。
「……先生、洗ってきますんで、斎藤君一緒に来てもらっていいですか?」
「……あ、あぁ」
気圧されている担任やクラスメートを置き去りに、草薙は颯爽と歩き出した。
「タケ!早く!」
「……」
僕も呆然としていたのだが、呼ばれてすぐよろよろと立ち上がり、彼女に続いた。