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「な、なんで!?」
僕は思わず大きな声を出してしまった。
草薙が向かっていたのは、彼女の家だった。
そいつは予想外だった。
草薙は肩をすくめた。
「変なファミレス入るより、お母さんの手料理のほうが良いと思って」
「いや、そうかもしれないけど……」
「ほら、さっさと歩く!」
草薙はぐいぐい引っ張ってくる。
「うわっ! ちょ、草薙!」
またバランスを崩しそうになりながら、僕は笑いが込み上げてくるのを感じていた。
草薙も緊張しているらしい。
まぁ、考えて見ればそれも不思議ではないような……。
「タケ、何笑ってるわけ?」
「別にぃ?」
「あっやしー顔!」
と、その時、草薙の携帯が鳴り、僕らを立ち止まらせる。
メールを見た草薙が、大きな声を出した。
「……えぇ!?」
「……どした?」
「外食してるんだって!」
草薙は「不良中年ども」と、ぶつぶつ呟いた。
ただ僕は、彼女の両親に会わなくてすむかもしれないと、内心ホッとしていた。
別にやましいこともないが、やっぱり顔を合わせたら気まずいだろう。
「じゃあどうすんの?」
僕が聞くと、草薙は笑って片目をつむった。
「大丈夫。私が作るから」
「……大丈夫なの? それ」
僕の軽口に草薙が笑顔のまま左手を上げ―――つまり、僕の右手を持ち上げ、無防備の脇腹に突きをぶち込んだ。
「イテッ!」
「さ、早く行こ」
またぐいっと引っ張っられる。
僕はクスクス笑いながら、それについて行く。
道の向こうに、昼と夜の境目の、群青色の空が広がっていた。
その空の色が、ぽつんと光っている一番星が、街灯の明かりが、車のヘッドライトが、その全てが、輝いて見えた。