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「……「男の子」は、「女の子」のことが好きなんだ」
僕は―――腹をくくったつもりであったにも関わらず―――彼女の目を見ることもできなかった。
でも、続けた。
終いまで言えないことの方がもっと情けなく思えたのだ。
「……だから、誘った。優しい「女の子」は、きっと断らないだろうと踏んでね」
どう思っていようと、彼女は断らなかっただろう。
彼女はそういう娘だし、何より、そういう状況だった。
僕は卑怯な自分に初めて気が付いた。
そのことが猛烈に恥ずかしかった。
「……情けないよな。今だって、「女の子」の目を見れないんだから……」
しばらく、草薙は何も言わなかった。
「……「女の子」は……」
沈黙を破ったのは、とても優しい声だった。
「それほど優しくないよ」
「え?」
驚いて顔を上げると、草薙は穏やかに微笑んでいた。
「「女の子」は「男の子」のことが好きなんだよ?」
息が止まった。
草薙は微笑みながら続ける。
「ずっと前から」
思い上がっているようだが、僕はそれを知っていた。
それなのに、僕は自分で驚いてしまうほど嬉しかった。
生きていてよかった。
本気でそんな言葉が頭に浮かんだ。
僕は涙が出そうになるのをやっとこらえている。
喉が詰まって、言葉は出せない。
草薙は待っていてくれている。
僕は自分のとてつもない歓びを、たった五文字の言葉に込めた。
「……ありがとう」
草薙は嬉しそうに、やはり五文字の言葉で応える。
「こちらこそ」
そう言った草薙の頬が、ほんのり赤くなっていた。
生きていてよかった。
ホントに。
何かを成し遂げられたわけではない。
何かを残せそうにもない。
それでも、僕の命は無駄ではなかった。
そう思えた。