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僕は最後の一口を口に押し込むと、包み紙をぐしゃっと丸めた。
「ゴミ箱はあっち」
草薙が示した方を向くと、少し離れたところに、金属製のゴミ箱が置いてあった。
普通の、コップを大きくしたようなゴミ箱で、蓋は付いていなかった。
「……入るかな?」
僕がバスケットボールのシュートモーションを真似ると、草薙はニヤッと笑った。
「賭ける?」
僕はしばらくその悪戯っぽい笑顔を見つめていた。
というか、見とれていたのだが。
僕は無理に視線をはずし、手の中の紙くずを見つめた。
「……何を?」
「願い事を一つ」
「願い事?」
「そ。例えば「三回回ってワンと言え」とか「電車の中で大声で叫べ」とか。あ、拒否権はないよ」
「ただの嫌がらせじゃねぇか!!」
草薙は声を上げて笑った。
「例えばだって、例えば」
「つまり、もう少し酷なことを考えてるわけだ」
「当たり前じゃない」
内容を聞いても、草薙は微笑むだけで何も教えてくれなかった。
「よし、分かった!」
僕は立ち上がった。
「覚悟は決まったの?」
「い~や!」
僕はゴミ箱の距離に見当をつける。
「決めりゃいいんだ、決めりゃ」
「なにしてもらおうかなー?」
「シャラップ!」
そして僕は、思い切りよく、包み紙をぶん投げた。
紙のボールは、NBA選手のスリーポイントのようなきれいな弧を描き、ゴミ箱の口の真ん中を通った。
僕はその勢いのまま拳を突き上げる。
「おっしゃ!!」
「あ~あ。入れちゃった」
「ザマァミロ」
僕は笑いながら言った。
「さぁーて、何をしてもら……」
「さて!!」
と草薙は僕の言葉を遮ると、すっと立ち上がった。
「そろそろ行こう。次は何しようか?」
「え?」
「買い物でも行こうか。私、買いたいものが……」
「お~い」
草薙はすっとぼけた。
「何?」
「……テメェ」
「アハハ!」
笑ってごまかそうとしてやがる。
僕は笑いを堪えながら横を向いた。
まぁそれはそれで構わないのか。
僕はもう、「願い事」を叶えてもらったのだから。
ふと見ると、草薙も包み紙を丸め、ゴミ箱との距離を測っていた。
「やめとけやめとけ。どーせ入んないよ」
「シャアラップ!」
草薙が「えい!」と声を出して投げた紙くずが、ふわっと浮かび、風に曲げられ、縁に一度ぶつかってから、ぎりぎりでゴミ箱の中に落ちた。
「おやぁ?」
「……なんだよ?」
「入ったよ?」
草薙は笑っていたが、僕は肩をすくめて先に歩き始めた。
「さっきのは、俺が投げた時の話。草薙が入れても意味はないよ」
「はぁ!? 卑怯!」
「なんとでも言って下さいな」
すると、思いっきり背中をどつかれた。
おかしかったが、結構痛かった。