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食べ終わってふと顔を上げると、草薙は頬杖を着き、物思いにふけっていた。
テーブルのコップの中の氷を見つめている。
僕はボーッと(もしかしたら半濁音のほうかもしれない)その顔を見ていた。
どのくらいたったのだろう。
草薙が急に顔を上げた。
もろに目が合い、僕はとっさに顔を背けてしまう。
その顔に血が上ってくるのが分かる。
目が合ったことで、急に自覚したのだ。
「……タケ?」
「え?」
「……大丈夫?」
「あ……うん。何考えてたの?」
「……う~ん……いろいろ、かな?」
「……ふ~ん」
「タケは?」
「……いろいろ、だな」
「……ふ~ん」
僕は目を逸らしたままだった。
しばらく当たり障りのない会話をしていたのだが、突然草薙が立ち上がった。
「……どうした?」
「出よ。お昼は別のとこで食べたいし」
時計を見ると、一時近くだった。
九時からの映画だったのだから、二時間近くもここにいたらしい。
「……これ以上粘ると文句言われそうだしな」
チラッとレジのほうを見ると、社員らしい店員のおじさんと目が合った。
彼のイライラが伝わってきて、僕は笑ってしまう。
僕が立ち上がろうとすると、草薙が握りこぶしを差し出した。
「はい」
「?」
僕がどうしたら良いのか分からずにいると、彼女は手の中身をテーブルに置いた。
「お金」
「……いいって」
「おごってもらう理由がないから」
草薙は立ち上がり、先に出口に向かってしまった。
僕は仕方なくテーブルの上の小銭を拾い、レシートを掴んでその後を追いかけた。