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映画は「どうってことのない」―――題名を聞いた僕がそう言うと、草薙はなぜか怒った―――恋愛映画だった。
二人が出会い、関係が深まり、こじれ、最後にめでたしめでたしといった類の。
まぁ、女優は可愛かったし、展開もベタだから安心して見ていられたのだが……。
(……きまずい)
「恋愛」映画だ。
当然のようにラブシーンがある。
そのたびに隣に座っている草薙の存在が妙に気になった。
最悪だったのは、中盤で二人がベッドの中で囁きあってるシーンだ。
自分に「落ち着け」と言い聞かせながら飲み物を取ろうとした僕は、手すりにあった草薙の手に触れてしまい、それで彼女とはたと目が合った。
直後、僕は真っ赤になって視線をそらした。
草薙も恐らく同じだっただろうと思う。
どちらも口には出さなかったが、多分、同意見だった。
僕らには早すぎたのだ。
映画が終わり、外に出た瞬間、僕は道の真ん中で大きく伸びをした。
「あ゛~……疲れた」
正直な感想だった。
草薙は黙っている。
僕は顔だけ彼女のほうに向け、首を傾げた。
「……草薙?」
草薙は目だけ上げて僕を見た。
小さな子が拗ねたような顔をしている。
そして彼女はボソッと言った。
「……馬鹿」
「はぁ!?」
草薙はそのまま歩いていってしまう。
僕は慌ててその背中を追いかける。
「待ってよ!」
とその時、彼女の向こうにファミレスの看板があるのが見えた。
途端に僕は、朝から何も食べてないことを思い出す。
「……腹減ったなぁ!」
草薙は立ち止まって振り向き、困ったような顔で僕を見た。
「……」
僕は若干恥ずかしかったが、口を尖らせて言った。
「なんだよ?」
「……別に」
草薙は看板を見上げる。
なんだか僕は、突然に申し訳ない気持ちが浮かび上がってきてしまい、視線を落とした。
彼女の背中が、ふっと溜息をついたように見えたのだ。
「ほら、入るんでしょ?」
彼女は急に優しい調子になり、僕を振り向いてにっこり笑った。