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待ち合わせた時間より30分も前に着いたのに、草薙は既にそこで待っていた。
僕は驚き半分、呆れ半分で言った。
「こんな早く来てどうすんの?」
草薙はチラッと時計を確認すると、肩をすくめた。
「お互い様でしょ。さっさと着替えて早く行こ」
彼女は言うが早いか、さっさとトイレに入ってしまった。
僕は一瞬唖然としてしまったが、すぐ我に返り、頭を振りながら男子トイレのドアを押した。
男の着替えなんて「これで良いのか?」と思うほど一瞬だ。
たいして、女の着替えは「何をやっての?」と思うほど長い。
僕はジーンズをはき、Tシャツにシャツを羽織るだけで、二分かかったかどうか。
さっさとトイレから出て、向かいの壁に寄りかかって草薙を待った。
一秒一秒が長かった。
人の流れが三回ほど通り過ぎた頃だと思う。
草薙が出てきた。
「ベタな質問していい?」
彼女はにっこり笑った。
僕には女子の服装を事細かに説明することは出来ないが、ただ、これだけは分かった。
とても……。
(かわいいな、オイ)
ネモが思考に割り込んできた。
僕はぼうっと草薙を見つめながら頷く。
それを草薙は自分の質問への肯定と受け取ったらしい(もちろんダメというつもりもなかったが)。
「……待った?」
僕もニヤッとした。
「全然」
こうして僕の、「最後の日」が始まった。