表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/67

36



それから僕たちは、最寄り駅に着くまで一度も口をきかなかった。



それも、別れる寸前に待ち合わせ場所と時間を決めただけだ。



ただ単に恥ずかしくなっただけだ。



お互いがお互いを、妙に意識してしまっていた。






僕は家のドアを極力ゆっくり引っ張った。



……ドン!



(……鍵!?)



今の音でもうばれたとは思ったが、音を立てないように鍵を差し込み、ゆっくり回した。



……カ……チャ



(……ふぅ)




そっとドアを開け、するりと中に入り込み、後ろ手で鍵を閉めた。



運の良いことに、誰もいないようだった。




それでも僕は忍び足で部屋に上がり、ベッドに腰を下ろした。



「ふぁ~、疲れた」



「で、どうすんだ?音楽か?それとも昼寝?」



いつの間にかネモが隣にいた。



もう驚きはしない。



「う~ん。そーいう気分じゃないな。あ、ところで、何時ぐらい?」



「何が?」



「タイムリミット」




答えがない。




見ると、ネモはポカンと口を開けてこっちを見ていた。



「……なんだよ?」



「……お前、こっちが心配になるほど「冷静」ってか、「他人事」だな」



ネモが呆れたように言った。



意外だった。



「おや、心配してくれてんの?」



「「この馬鹿は本当に理解できてるのか?」ってな」



僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。



「まぁ、半信半疑だからな」



「半信半疑? まだ疑ってんのか? ……まぁしょうがないかもしれんが」



「いや、お前を疑ってるわけじゃなくてさ」



「あん?」



「ただの心持だよ。「明日死ぬみたいに行動して、まだまだ生きられるように考える」。半信半疑だろ?」



「……その使い方は何かおかしいと思うんだがな」



「まぁ、細かいことは気にすんなって。で、何時?」



ネモは僕の顔をじっと見た後で、無表情に言った。



「9時半過ぎ」



「……テキトーだな」



「細かいことは気にしないんじゃなかったのか?」



僕がにらみつけると、彼はふっと微笑んだ。



「分かった分かった。9時37分38秒06だ」



「細か!!しかも微妙すぎないか?」



ネモはニヤリと笑った。



「人間、死ぬ時間は選べねぇんだよ」




僕は頭をよぎった疑問を、一瞬躊躇ったが、そのまま口にした。



遠慮する必要もない。




「逆に……選べるものってあるのか?」



「……何?」




僕は後ろのベッドに倒れこんだ。



天井を見つめていると、心臓がきりきり痛んだ。




ネモの力ではなかった。




ただ、苦しかった。



「そうだろ? ネモ。俺たちは生まれる場所も、親も、仕事も、……学校だって選べない」



「でも、仕事とかは……」



「分かれ道に気付くのは通り過ぎた後なんだよ」




少なくとも、僕はそうだった。



「それじゃ選んだことにはならないだろ?」



ネモが答えないので起き上がると、彼はさっと目を逸らした。




僕が戸惑っていると、彼が低い声で言った。




「……それなら、一旦戻って、もう一度分岐点に立つんだよ」




「へ?」



僕は不意打ちを食らったように思った。



ネモが不機嫌に続ける。




「お前ら、進むことばっか考えて、自分が戻れるって事を忘れてやがる」




彼は「よいしょ」と立ち上がった。




「突き進むだけなら、ヤクの中毒者となんも変わらねぇんだぞ」




頭がズキッと痛んだ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ