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妙にふわふわした感じで下駄箱まで歩いていくと、一段と激しいめまいがした。



それで僕は、下駄箱にもたれかかった。



と、同時に足がずりずり滑りだし、最後にぺたんと床に座り込んでしまった。



僕の情けない声が一粒こぼれた。



「……あれ……?」



(疲れてるな)



対照的に確固としたネモの声。



しかし、温かだった。



「……ま、しょうがないでしょ……」



(気張りすぎなんだよ。分かったろ? 何かを変えるってのも、生易しいもんじゃねぇんだよ)




「……後、少しだからさ……」



僕は目の辺りを押さえた。



「……何も残せないなら、何かをするしかないじゃんか……」



ネモは鼻を鳴らしたが、なんだかそれも温かく聞こえた。





「タケ!!」



目を上げると、草薙が心配そうに覗き込んでいた。



「……大丈夫?」



「……さぁね」



僕は何とか立ち上がったが、彼女はまだ心配そうだった。



僕は無理に笑って見せた時、思いついたことがあった。



しかし、それを口に出していいものか、一瞬躊躇われた。



草薙は僕の様子を観察していたが、「大丈夫」と判断したらしい。



「……タケ、行こ」



僕は彼女の顔をじっと見つめ返した。



「え? 何?」と、草薙が少し戸惑う。



僕は決断した。



腹をくくろう。



どうせ最後だ。




その価値はある。




「……あのさ」



「え?」



「明日、どっか行かない?」



草薙はキョトンとこっちを見ていた。



「どっか?」



僕は肩をすくめた。




「どっか、だよ。ここじゃない、草薙が行きたい場所」



彼女の目が変わった。



何か「深い」とでも言おうか。



後ろの感情が全く見えない。



彼女は僕の目を見つめたままで頷いた。



「……いいよ。放課後?」



「……できれば朝から」



真面目な草薙にこんなことを言うのは間違いかとも思ったが、彼女はふっと笑った。



「やっぱりね。……いいよ」



「え?」



自分から誘ったのに、相当驚いてしまった。



というか、よく考えたら、校長に「明日話すから」なんて言って逃げてきたのに。




……まぁ、いいか。あんな奴。



草薙に促されて、僕たちは学校から出た。



僕は振り向いてたまるかと思った。



ここにはもう、なにもない。



振り向いてはならないのだ。



残されたひと時のために。




そんなことを考えていた僕は、



「どうするつもり?」



という草薙の問いかけにハッと我に返った。




横を見ると、草薙が首をかしげて僕を覗き込んでいる。



質問の意図がよく分からなかったが、僕は「親にどう説明するのか」ということだととった。



僕は説明する気などさらさらなかった。



「……私服を持って出てこよう。途中で着替えれば……」



「親には黙っていくってこと?」



草薙は淡々と確認するように言った。



「当然だろ」



僕は目を背ける。



「だって許してくれるはずがないじゃん」



「出かけることじゃなくて」



草薙は横を向くと、僕の視線を追った。



「今日のこと」



「今日のこと?」



当たり前じゃないか。



今まで隠し通してきたのに、なんで今更言わなきゃならない?



「……そんな傷だらけの顔で、どう誤魔化すつもりなの?」



僕は始めて彼女の言わんとするところに気付き、顔の絆創膏に手を当てた。



そうか。 忘 れ て い た 。



「そう簡単に出してもらえるはずがないでしょ? いくらなんでも」



「まぁ、なんとかなるでしょ」



僕は肩をすくめた。



草薙が何を感じたのかは分からないが、彼女はそれ以上尋ねてこなかった。






勝算はあった。



同じ手を使えばいいのだ。




「明日」。



「明日話すから」と言えばいい。




僕はそれだけで逃げ切れるのだ。






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