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保健の松田先生は僕の顔をまじまじと見つめた後、率直な感想を言った。
「すごい顔!」
この先生は嫌いじゃなかった。
さっぱりとした人だからだ。
「話とか治療とかの前にそこで顔洗いなさい。ホント、すごいから」
二度も言うことないじゃないか、と思ったが、黙って従った。
「……全く、決闘をするような馬鹿がこの学校にいるとはな」
校長の声が聞こえた。
僕は耳を疑った。
「……決闘?」
僕が振り返ると、彼は憤りの眼差しをこちらに送ってきた。
「覚悟しておけよ。只では済まさんからな!」
僕は呆然としてしまった。
彼は時田のほうを見ながら続けた。
「しかも、相手が気を失うまでやるとは……!こういう奴が人殺しになるんだ!」
失望と疲労を感じた。
それと多少の悲しみとを。
僕は口をつぐみ、そこの水道のほうに歩いていくと、顔を洗い始めた。
(……でも、案外正しいかもしれない)
僕は静かに思った。
(僕は時田を殺す気だったんだから)
じゃなきゃ殺されていたのだ。
間違いなく。
と、その時、保健室の扉が開いた音がした。
そして足音がどたばたと近寄ってきて、誰かが僕を無理矢理振り向かせた。
僕は「強引過ぎるだろ」と思いながら、瞬きで目を覆っていた水滴を落とした。
「何があったの?」
草薙だった。
どうやって知ったのか知らないが、体操服のまま駆けつけてきたらしい。
何故かとても怒っている。
「また時田でしょ?」
「まぁまぁ、草薙さん」
松田先生が彼女にタオルを渡しながら言った。
「ちゃんと顔洗わせてあげなきゃ話も出来ないでしょ」
「……」
草薙は黙り込んだまま、タオルを差し出した。
僕は苦笑しながらそれを受け取り、顔を拭く。
「どこのクラスなんだ?」
校長は草薙に聞いたらしい。
「……2-4です」
「今まだ授業中だ。保健室に用がないならすぐに戻……」
草薙は言葉が終わる前に、
「気分が悪いので」
と、目も向けずに極めて不快そうに遮ると、校長がそれ以上何か言う前に
「なんでここに張本人がいないわけ?」
と僕に尋ねた。
「張本人?」
「時田」
草薙はきわめて短く答えた。
それで僕は黙ったまま、彼が横たわっているベッドを指差した。
「え?」
彼女はそれを覗き込み、時田の姿を確認すると、
「な、何が起きたの?」
と目を丸くした。
「喧嘩だよ」
僕が答える前に校長が苦々しそうに言った。
「この馬鹿は、あそこの少年が意識を失うまで殴り続けたんだ。喧嘩両成敗とは言うが、しかし……」
「待ってください!」
草薙が「信じられない」という顔をしていた。
「これはただの喧嘩じゃない!そうでしょ、タケ!?」
僕は黙っていた。
馬鹿馬鹿しいかもしれないが、認めたくなかったのだ。
草薙の言う意味で「ただの喧嘩」ではない、ということを。
「それはどういう意味だ?」
「タケ、話していいよね?」
僕は答えなかった。
ただ、向かいの壁の一点を見つめていた。




