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ものすごい音が響き渡り、見て見ぬ振りを決め込んでいた奴らを含め全員がこっちを振り向いた。



そして最後に、時田がゆっくりと振り返った。



「草薙さん、なんか用?」



「……いい加減にして」



草薙はぎょっとするほど静かに言った。


「何がしたいの? タケを苦しめてそんなに楽しい?」


「はぁ?」


時田は嘲笑をそのまま形にしたような反応を示す。



「馬鹿でしょ。楽しいに決まってんじゃん」



そんな台詞を予想していなかったのか、草薙は一瞬言葉に詰まった。



そして時田が完全に馬鹿にした口調でさらに続けた。



「草薙さんは良い子ぶって「分かんない」って言うだろうけど」



彼が目配せすると、いつも時田のそばにいる連中が声を上げて笑った。



草薙はその笑い声に当惑しながら反論しようとした。



「別に良い子ぶってなんか……」



しかし、時田は聞いてもいなかった。



「快感だよ、カイカン。蟻をつぶすのと一緒だよ」



彼が目を上げ、僕を見た。



そう、虫けらを、いや、靴底に張り付いたその死骸を見るかのような目で。



「ただ、タケシは蟻より良いぜ」



彼はニタリと笑った。



「蟻の表情は分からないしな」



僕はぞわりと悪寒が走り、後ずさった。



知ってはいた。



時田は悪意の塊なのだ。



でも知っているからと言って、それを目の当たりにして動揺せずにいられる奴もいない。



草薙も目を見開き、多分に恐怖の混じった表情で時田を見つめている。



それに気づいた時田は意地悪く笑った。



「おっと、気をつけないと、先生に怒られちゃうな」



彼の目配せでまた何人かが笑った。



「……?」



僕と草薙が顔を見合わせたその瞬間。



「センセーに言いつけるよぉ!!」



時田は声色を変えて叫んだ。



途端に草薙が青ざめた。



それを見て時田はさらに笑った。



「知ってんだぜ、草薙さん。あんたが先公にちくったって」



彼女は何も言わなかった。



時田は口元に嘲笑を浮かべながら続ける。



「意外となんも考えてないんだね。あいつらが動くとでも思ったの?」




「……私は……」



草薙の声が震えている。



彼女が何を言おうとしたにしろ、時田はそれを冷たく遮った。



「あんたが余計なことしなければ、武があんなにひどく殴られることもなかったのにな」



僕は思わず目を瞬いた。



そんな無茶な責任転嫁があるもんか。



でも草薙はそうは思わなかったらしく、視線を落とし、白い顔で黙っている。



僕が驚く一方、時田はさらにニンマリ笑った。



「マジ偽善者だよね。何? 「タケを助ける!」とか思っちゃったわけ?」



刺して、ねじ込む。



そんな物言いだった。



草薙は悔しそうに唇を噛み締めている。



「……草薙……」



僕は彼女を慰めようとしたのだが、言葉が出てこなかった。



「ハッ、泣いてんの?」



時田が草薙を覗き込み、無神経な笑い方をした。



草薙は反射的に顔を背け、自分の真横の床を見つめる。



「マジうけるな! 意味分かんねぇし!」



そして始まった笑い声を聞き、僕は一気に頭に血が上るを感じた。



「時田……!!」



しかしその時、草薙が僕の前を横切ると、「あ」っと息を呑んでいる間に教室を出て行ってしまった。



顔は見えなかったが、その後姿は明らかに泣いていた。







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