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教室はいつもと同じだった。



いくつかの談笑の輪があり、皆が楽しそうに話している。



自分がやけに場違いに感じられた。




ここにいてはいけないと思った。




その心を読んだように一人の男子が声を上げる。



「おい病気持ち!!うつすんじゃねぇぞ!!」




その時(僕は無視するつもりだったのだが)、草薙が過剰に反応した。




「何が病気よ!?馬鹿じゃないの!?」




あまりの剣幕に、僕も、笑った男子も驚き、動きを止めた。



「一人でいじくる力も、度胸もないくせに……ホント、あんた馬鹿!?」



彼は目を瞬かせ、何も言い返せなくなってしまったらしい。



草薙の迫力に「呑まれた」とでも言おうか。



まぁ、無理もないな、と僕も目を瞬かせながら思った。



と、草薙がその剣幕のまま、僕のほうに振り向き、僕は思わずたじろいだ。



「タケも!!なんで黙ってんの!?」



「え、あ……」



僕が答える前に、嘲るような声がした。



「怖いからだよな、腰抜け」



時田が意地の悪い笑みを浮かべていた。



草薙が口を開く前に、僕は目で彼女を牽制し、止めた。



「……タケ……?」



「……別にお前らなんか怖くねぇよ」



嘘ではない。



恐怖はなかった。



僕はぼそりと呟いた。




「……どうせ、死ぬだけなんだから」




それは時田には聞こえなかったらしいが、草薙は目を見開いた。




「タケ……!?」



「なんつったんだ?」



時田が明らかに僕を見下しながら近づいてきた。



「訂正しちまえよ、武。「本当は怖くて仕方ありません」ってさ」



穏やかな口調ではあったが、迫力はものすごかった。



周りの顔から笑みが消えた。



草薙ですら一歩後ずさった。




「それから土下座して、地面に頭を擦り付けろよ。そしたら許してやってもいいぜ」



「……許す?」



僕は後ずさろうとしている体を必死で抑え、そこに立っていた。



頭とは違い、身体の方は恐怖に震えているらしい。



例えでもなんでもなく、足に力が入らない。



膝の震えがどう頑張っても収まってくれなかったのだ。



それでも僕は、何とか声を絞り出した。



「……なんだよそれ。まるで、俺がいつも何かしてるような言い方だな」



時田は視線を落とし、(ほぼ間違いなく僕の足を見て)ニンマリ笑った。



「昨日のだよ」



彼はこれ見よがしに右手をさすってみせた。



「思いっきり叩き落してくれたなぁ。こりゃ、賠償金もらえねぇと引っ込めねぇなぁ」



僕は黙っていた。



周りが半分面白がって、半分がいつもと違う何かを感じ、息を呑んで見つめているのが分かった。



僕は声が震えたりしないよう用心しながら言った。



「……いいぜ、払ってやるよ」



「タケ!?」



僕は草薙を無視した。



目をやることもしなかった。



僕はただ、時田を見ていた。



彼は唇をめくり上げて笑う。



「そうそう、蛆虫は蛆虫らしくしてりゃいいんだよ」



「寄生虫はそっちだろ!」と叫びたかった。



しかし、僕はそれを飲み込んだ。



「……いくらだ?」



時田は唇の端を吊り上げたまま、右手を広げた。



「五万だ。期限は明日。分かったな?」



彼は笑いながら自分の席に戻ろうとしたが、話はまだ終わってなかった。



しかし、僕が呼び止めようとするより早く、草薙がカバンを床ににたたきつけた。





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