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「おい!起きろ!!」
「あら?」
「……もう9時だ。そろそろ下に下りたほうがいい」
「……サンキュー……」
僕は目をこすりながら、部屋を出て行った。
母は心配そうだったが、理由は単純極まりない。
「塾や学校に行けないと、その分勉強が遅れてしまう」からだ。
僕は黙ったまま食事や風呂を済ませ、早々に部屋に戻った。
部屋では、ネモがベッドに横になり、天井を見上げていた。
「ほら、どけ。俺の寝床だ」
彼は不機嫌そうに唸り、体を起こした。
「分かってるな?後……」
「「二日だ」ってか?引き算ぐらい出来るっつの」
「あぁそうかい!!」
ネモがイラついているのを見て、生意気な口をきいたのを少し後悔した。
「さぁて、何しよう?」
僕がそう言うと、ネモは不思議そうに首をかしげた。
「どういう……?」
「何か建設的なことをやろうかと思ってサ。「Art is long」って言うじゃんか?」
ネモは半ば馬鹿にしているような―――少なくとも僕はそう感じた―――目で僕を見た後、こう尋ねた。
「なんか得意なもんでもあるのか?」
考えてみよう。
絵、幼稚園児レベル。
音楽、致命的。
彫刻、聞くまでもなく。
結論。
「ないな。全部苦手」
ネモは呆れたように笑った。
「何残すつもりだよ。ってか、人間、皆考えることは一緒だなぁ。どいつもコイツも、最期の一瞬は芸術家になれると思ってやがる」
「そりゃ、皆自分が生きてたって証拠が欲しいじゃん」
僕がそういうと、ネモは大きく溜息をついた。
「皆そう言うよ。そんで皆何かを残そうとする」
「……じゃあさ」
僕はニヤリと笑った。
「朝言ってた、「ベッドに「お相手」を連れ込んだ男」は何を残したんだ?」
「あの男は何も残さなかった」
ネモはニヤニヤ笑っていた。
「あ、でも、残そうとはしてたぜ?」
「へぇ、何を?」
「自分の子孫。お前も、あの娘で試してみたら?」
自分の顔がばっと赤くなるのが分かった。
ネモはそんな僕を見て笑い転げている。
「テメェ!!」
ネモはピタリと笑いを止め、ファイティングポーズをとっている僕を指差した。
「それは笑われて怒ってるのか、想像しちまった気恥ずかしさの八つ当たりか、どっちだ?」
僕は固まってしまった。
「なんだ、後ろの方か」
ネモは「やれやれ」と首を振った後、また吹き出した。
「ネモ!!」
「悪い悪い!」
ネモは笑いながら言ったが、僕が睨むと声を立てるのはやめた。
しかし顔はにやけている。
「安心しろ。男なんて皆そんなもんだ」
そう言ってからネモはまたクスクス笑った。
僕は「やれやれ」と溜息をついた。