23
駅で草薙と別れたとき、走れば塾に間に合う時間だった。
「お!!」
しかし僕は、二、三歩走っただけで、急ブレーキをかけて止まった。
突然馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。
ポケットに手を突っ込み、ことさらゆっくり歩きながら、一人で呟いた。
「もうすぐ死ぬってのに、な~にが塾だ」
「そんなしかめっ面すんなよ」
限界まで細くした目でも、隣に並んで歩くネモは見えた。
「……なんかさ、俺、疲れたよ。まだ何にもやっちゃいないのにさ」
「何もやってないことないだろ」
僕が振り返ると、ネモは肩をすくめた。
「……校長に歯向かい、時田に喧嘩売り……十分「何か」してると思うんだが」
「……でもさ、何も「やり遂げてない」」
僕は暗い気持ちになった。
そう、僕は何一つ達成していない。
しかし、ネモが何気ない口調で言った。
「人間なんてそんなもんさ」
僕はその言葉に足を止められた。
ネモは少し微笑んでいた。
「何かをやり遂げて死ぬのはほんの一握り。未練なく逝った奴なんて、いやしないんだよ」
ネモは「行こうぜ」と促したが、僕は立ち止まったままだった。
「?……どうした?」
「……でも、そうなりたいじゃんか」
僕がそういうと、ネモは声を上げて笑った。
馬鹿にしているような笑い方ではなかった。
それが事実かどうかは別として、僕には彼が「分かっているよ」と言っているような気がした。
僕が歩き出した時、彼の姿がいつの間にか消えていた。
家に入るとすぐ、母が居間から出てきた。
「武?塾は?」
「今日は休む」
僕は二階に上がろうとした。
しかし、母はヒステリックにそれを止めた。
「武!?どういうこと!?そんな余裕があるような成績ではないはずでしょ!!」
「……体調」
「は!?」
僕はうんざりしながら繰り返した。
「体調が悪いから休む」
「体調?風邪?」
僕は肩をすくめた。
「学校で倒れちゃってさ。貧血っぽいけど」
「大丈夫なの!?」
「分かんないから休むんだよ」
そう言って僕は階段を上っていった。
「……ふう……」
部屋に入ると、ネモの姿がベッドの上にあった。
端に座り、こっちを見ている。
「……どうすんだよ?」
僕は肩をすくめて、ベッドに寝転がった。
「体調悪いから寝る!」
「はぁ!?」
僕は目を閉じた。