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(行かないのか?)



しばらくしてネモが尋ねてきた。



僕はベンチにずっと座っていた。



この間、この駅には電車も、人も、全く現れなかった。



(……逃げようとするのは間違いかな?)



ふと横を見ると、何事もなかったかのようにネモが腰掛けていた。



足に肘をつき、顎に手を当てている。



その状態のまま、ネモは肩をすくめて見せる。



「さぁな。俺に聞かないでくれ」



「……じゃあ、誰に聞けってんだよ!」



僕は立ち上がり、時刻表を覗き込んだ。ネモが顔を上げる。



「……おい、そりゃ戻る電車だぞ?」



「そんくらい分かってらぁ!」



彼は「あっそ」と呟き、またさっきの姿勢に戻った。



僕は呟いた。



「……やめるか」



「はぁ?」



僕は地面に置いたかばんを拾い上げた。



ネモは体を起こし、僕を見た。



「何を?」



「「戦略的撤退」」



ホームの端で時計を見上げ、間もなく電車が来ることを確認する。



ネモはすぐ後ろまで歩いてきた。



「……やめてどうすんだ?」



「戦う」



口に出してみて、なんて陳腐なせりふなんだろうと思った。



「時田と?」



ネモは昨日の夜と同じ事を聞いてきた。



それで僕も、同じように首を横に振る。



「……じゃあ、何と?」



「分からない……」



正直な答えだった。



「でも、このまま終わりたくないじゃんか」



その時アナウンスが流れ、電車が入ってきた。



僕の目の前の車両には、誰一人乗っていなかった。



(珍しいこともあるもんだ)



僕は電車に乗り込んだ。



「……おい!」



振り返ると、ネモはホームにとどまっていた。



「……戦ったからって、勝てるとは限らねぇぞ」



「……勝てるとは思ってない」



僕は呟くように言った。ネモが眉間にしわを寄せた。



「……ただ、何かを変えられるはずだと思ってるだけだ」



ネモは心配そうにしていた。



彼のそんな表情を初めて見た。




「……それも難しいと思うぞ」




僕は笑った。


自分でも別人だと思うほど、快活な笑い声だった。



「……死ぬ気でやれば、出来ないことなんかないよ!」




あの独特な音がして、扉が閉まった。



心配そうなネモを残し、僕だけの電車が動き始める。






簡単だよ。





本気でそう思った。



人は少なくとも、後二、三十年は生きられるように出来ているはずだ。



僕だって、例外じゃない。



ちゃんと燃料は与えられているだろう。



生きていられるのが残りわずかなら、そのわずかな時間に燃料を燃やし尽くせばいい。



そうすれば、どでかい火柱が―――



天まで、届くはずだ―――。








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