17
終点に着いたのは、大体40分後だ。
ホームに降り、辺りをきょろきょろ見回してしまった。
いつも通っている駅と大差ないのに、なんだか落ち着かない。
そこに誰もいなかったからかもしれない。
ヴヴヴ……ヴヴヴ……。
携帯が鳴った。公衆電話からだった。
「もしもし?」
「タケ!?」
「……草薙……」
「何やってんの!?今どこ!?まさか死ぬ気じゃないよね!?」
草薙はすごい剣幕だった。
「……死ぬ気はないよ。只、学校に行く気もない」
すると、草薙は少し安心したようだった。
「……そう……良かった……」
「……と、言うわけだから。じゃあ……」
「待って」
切らせてくれなかった。
「……なんだよ?」
「……逃げ道はいつかなくなるよ?」
「……長いこと逃げるわけじゃ……」
「それに!」
草薙は僕の言葉を遮った。
「逃げたって何の解決にもならない……でしょ?」
「……じゃあ、どうしろって……?」
僕はベンチに座り込み、目を押さえた。
「戦って死ねってか……?」
「そんなこと言ってない!只、戦う前に逃げるのは……」
「誰が!?」
僕は吼えた。
「誰が戦う前に……!?」
僕にとっては、この毎日が戦いだった。
生きていくことが。
しかし、草薙もまた怒鳴り返してきた。
「決まってるでしょ!?」
彼女の声は、携帯を耳から離しても聞こえるほど大きかった。
「殴られても、蹴られても、黙ったままの誰かさんよ!!」
何も言えなくなってしまった。
差し込まれた感があった。
「……また黙る!戦いもしないで、何かが変わる訳ない!」
「……そう……だな……」
僕の口調が、草薙の声をも変えた。
「……ごめん」
「え?」
「……何もしてないし、何もされてない私が偉そうに……」
彼女の悲しそうな声に、僕はまた何も言えなくなってしまう。
草薙は繰り返した。
「……ごめん」
しばらくして、電話が切れる。
恐らく、コインを入れることを忘れていたのだろう。
いや、もしかしたら、彼女が切っただけかもしれない。