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気付いたら天井を見上げていた。



まだ、部屋は暗い。



ネモが暗闇の中に立っていた。



「……まだ早いぞ?」


僕は呻いて時間を確認した。


起きなきゃならない時間まで後小一時間。



「……でも、二度寝して起きれるとは思えねぇ……そこのイヤホンとってくれ」



ネモが投げたコードを受け取り、携帯につないだ。



程よい軽快さを持っている音楽が他の全ての音を掻き消した。












母が怒鳴った。



「武!!」



音を止めたと同時にネモが呟く。



(逃避行の始まりだな)



僕は曖昧に頷き、制服に着替え出した。



それを見たネモが不思議そうに言った。



(……おい、何してんだ?)



「着替えだよ。ってか見て分かるだろ!」



(逃げんじゃないのか?)



彼が制服のことを言っているのにようやく気が付いた。



「あの親が私服で外に出すわきゃないだろ?」



「あ、なるほど……」



「人に見られてると思うと、着替えにくいんだが」



「あ?あ、あぁ……」



ネモの気配が消える寸前、呟きが聞こえてきた。



「気にしねぇ奴は、俺の目の前でベッドに「お相手」を連れ込んでたけどなぁ」



天井に枕を投げつけても、空しく落ちてくるだけだった。





家を出た後、何も考えずにいつもの地下鉄に乗ってしまった。



(……あ)



(マヌケ、無意識だっただろ)



ネモは溜息をついた。



それで僕は意地を張る。



(……違ぇよ!このまま終点まで……)



(彼女が見てるのに?)



その言葉に辺りを見回すと、少し向こうにいた草薙と目が合った。



「あ……」



草薙が目を逸らす。



僕は目を閉じ、手すりに寄りかかった。



(誰も見ちゃいないよ)



返事はなかった。






乗り換えの駅は、この地下鉄の乗客が多く降りる駅だ。



僕はその人ごみをかわし、車内に残った。



(……よし)



うまくいった。



恐らく、草薙にはばれずに済んだ。



耳障りなブザーが鳴り、扉が閉まった。




その時。




暗い顔でエスカレーターの列に並んでいた草薙が、ガバッと顔を上げ、こちらを振り向いた。


思い切り目が合う。



最初から僕の位置を知っていたかのように、彼女の視線はぶれなかった。



唇が「タケ」と動いた。



草薙が二、三歩ふらふらとこちらに踏み出した時、ようやく電車が動き始める。



呆然と立ちすくんでいる草薙が、ゆっくりと窓の端に追い込まれていく。



僕は目を伏せた。



電車の加速が妙に遅かった。



(……うまく、振り切ったな)



(……あぁ……)



僕は唇をかみ締めた。




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