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知らない内に学校にたどり着いていた。


校長がいつものように生徒に挨拶している。


あぁすれば生徒を飼い馴らせるとでも思っているのだろうか。


彼らの言う、「模範的な生徒」になるとでも。



僕は俯き加減で、その横を擦り抜ける。


すぐに声が追ってきた。


「挨拶位したらどうだ!?」



僕が聞こえなかった振りをすると、後ろで草薙が謝った。



「すみません!」



肩越しに振り返ると、校長がこっちを睨んでいた。


僕は肩をすくめて先に進んだ。



草薙は僕に追い付くと、腕を掴んで止まらせた。



「ちょっと!あの校長、めんどくさいんだから!」



「……ごめん」



僕は顔を背けた。


心を読まれてしまうような気がした。



「……タケ、先生達は助けてくれるよ?」



僕は思わず振り向いた。


信じられなかった。



「……それ……まさか本気で言ってんの?」



草薙は目を見開き、手を離した。


彼女が怯えているようだったが、僕は構わず続けた。



「担任があんな風にしてんの見ていて?」



草薙は顔を背ける。


僕は苛立ち半分、悲しさ半分でそこから立ち去ろうとした。


しかし、再び腕を掴まれた。



「……なんだよ?」



「……信じてみてよ。もしかしたら……」



「無駄だよ」



僕は腕を振りほどいて歩き出そうとしたが、尚強く掴まれただけだった。



「何でそんな……!」



「分かりきってんだよ!!」



僕は男子トイレに入った。


草薙も手を放した。




その日は時田の機嫌が良かったらしく、そこまでひどくは殴られないまま、午前中の授業が終わった。


昼休みも少し小突かれた程度で、ここ二、三週間で一番平和な日になりそうだった。




凪は大しけの前兆だと聞いたことがある。


よく知られている言葉だと、「嵐の前の静けさ」か。


まさにそれだった。



風が吹き始めたのは放課後すぐだ。



「武!」



時田が絡んできた。



「……何?」



「忘れてたんだけどよ、一昨日言った五千円……」



「皆」



僕らが教室の前のドアのほうを見ると、そこから担任が頭だけ出していた。



「体育館に集合だ」



時田は訝しげに彼に尋ねた。



「先生、何で?」



「緊急の学年集会だ。早くしろよ」



そういうと担任は頭を引っ込めた。


それとほぼ同時に時田が僕をにらみつけたが、僕にはそれがなぜか分からなかった。




先に体育館に来ていた先生方は、そろいも揃って険しい顔をしていた。


嫌な感じだった。



(誰か死んだのか?)



なんとなく、彼らが僕を見ないようにしている気がした。



嵐がすぐ近くまで来ていた。



「皆さん」



学年主任の女性教師が(大半に嫌われているくせに、変に馴れ馴れしいオバサンだ。どうでもいいことだが、僕は大っ嫌いだ)、妙に静かで、妙に神経を逆なでする声で言った。



「昨日、生徒の一人からの訴えで、いじめがこの学年に存在していることが発覚しました」



辺りがざわついた。


皆が気にしているのは「誰が訴えたのか」ということで、その事実があることに驚いている奴は一人もいない。


教師は声を張り上げた。



「静かに!!静かにしなさい!!」



皆が静かになると、彼女の声はおとなしく―――そして気色悪くなった。



「学年の先生たちで相談して、こういう形を取りましたが、当事者たちはことを公にしたくはないでしょう」



僕はとてつもなく嫌な予感がした。



「ですから、学校側は詳しいことは調べません」



何かを聞き間違えたか、教師が言い間違えたらしい。


そんな風に思った僕を置き去りにして、彼女は続ける。



「いじめをしている生徒は、これ以降はやめるように。いじめは悪いことなのです」



彼女はさらに何か話し始めたが、僕にはもう何も聞き取れなかった。



言葉が全く届いてこなかったのだ。



が、落胆はしなかった。


何か問題が起こると必死でそれを隠そうとする奴らに、何か出来ると期待するほうが間違ってる。


でも僕は、溜息をつかずにはいられなかった。





僕の周りの奴らが立ち上がった。


解散が告げられたらしい。



その途端、ものすごい力で肩をつかまれた。



「イテ!」



振り返らなくても誰だか分かる。


そして、何の用かも。



「テメェ、ちくりやがったな!?」



「ちが……!!」



反論は顎への一発で封じ込まれた。


時田は僕の襟を掴んで、強引に引きずり出した。



脳が揺れて意識が飛びかけていたが、彼がクラスの男子に声をかけながら、屋上に向かっているのは分かった。






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