第4話
「……どうすればいいの……」
机に額を押しつける。
十五パーセント。
利息。
満期。
「このままじゃ……」
五年で、二年半分。
到底届かない。
何を削れば届くの。
「……輸送の契約を、外してもらえば……?」
……でも。
未納が続いてから外すなんて、
それこそ信用を失うだけじゃない。
「それでも少しは……」
そのとき、扉が叩かれた。
「お嬢様、夕食でございます」
「……はい」
廊下を歩きながらも、数字から頭が離れない。
水路の積立。
輸送枠。
穀倉の区画……
どこから手をつければいいのか、
分からない。
食堂に入ると、お兄様はすでに席についていた。
「遅かったな」
「ごめんなさい……少し、調べ物をしていて」
椅子を引いてもらい、静かに腰を下ろす。
「調べ物?」
「……気になっていたことがあって」
「何がだ」
兄が顔を上げる。
「お兄様……輸送契約って、本当に必要ですか?」
「必要だ」
即答だった。
「穀倉の出荷は、あの枠がなければ滞る。父上の判断だ。俺も承認している」
スプーンを置き、こちらを見る。
「今さら外せば、弱みを見せることになる。……なぜそんなことを聞く」
一瞬、目を伏せる。
「収支を見て、気になって」
兄の眉がわずかに動く。
「出荷は安定しているのに、余裕が増えていない気がして」
「純収益が安定している。それで十分だ。
輸送枠を外せば、買い叩かれる」
「でも……支払いは滞りました」
一瞬だけ、兄の視線が止まる。
「一時的なものだ」
パンをちぎる指先が、わずかに強い。
「支払いが滞ったのは、水路の補修費が重なっただけだ」
言い切られ、私は口を閉じた。
しばらくしてから、ふと尋ねる。
「お姉様は?」
「夜会だろ」
「……お兄様」
兄が視線を上げる。
「夜会に出る理由って、何ですか?」
「何だ、急に」
「気になって……」
兄は少しだけ考えるように間を置いた。
「……あれも、信用だ」
フォークを置く。
「顔を出さなければ、裏で何を言われるか分からん。
それだけで弱みになる」
私は小さく息を呑んだ。
「参加しないだけで……?」
「そうだ。
夜会は、金を取りに行く場所じゃない。疑われないための場所だ」
信用って……お金がかかる……
思わず、口を衝いて出る。
「お姉様って、縁談のお話はあるのですか?」
「ある」
「……そうですか……」
「だが、急ぐ話ではない。条件が良いとは言えん」
「条件?」
「家格が一段落ちる。向こうは次男、三男が多い。あるいは地方の中堅家だ。それに――」
「それに?」
「持参金の話が出ている」
「じ、持参金……?」
「悪い話ではない。だが、こちらが“余裕がある家”であることが前提だ。足元を見られれば、条件はさらに下がる」
すっかり忘れていた。
結婚には、金がいる。
――なら、私は。
伯爵家へ嫁ぐとしたら……
どれほど必要になるのだろう。
はっとして、首を振る。
何を考えているの。
そのとき。
「……お前」
兄の視線が、わずかに鋭くなる。
「実務者会で、何か言われたのだろう」
「えっ……」
心臓が跳ねる。
「ち、違います……」
「余計なことを吹き込まれるな」
ナイフとフォークを揃え、兄は淡々と言う。
「外の人間は、家の事情を知らん。面白半分で不安を煽る」
「……」
「もう行くな」
静かな命令だった。
「必要なことは、俺と父上が決める」
うつむきかけて――はっとする。
「……でも」
兄が視線を向ける。
「また、ドレスが送られてきたんです」
「……」
「行かないのは……相手の信用を失うのでは……?」
「……誰からだ」
「実務者会の主催家からです」
短い沈黙が落ちる。
「あれは社交辞令だ。
……だが、続けて招かれているのは事実だ」
兄は低く言う。
「信用を失う、とは言わん。だが、距離はできる。
……今回だけだぞ。次はない」
顔を上げる。
「父上にも俺から話す。妙なことはするな」
「……はい」
「家の名を背負っていることを忘れるな」
私は小さく頷いた。
それ以上、何も言わない。
食器の触れ合う音だけが、静かに響く。
結婚。
持参金。
――そっか……
湯気がゆらりと揺れ、
視界がわずかに滲んだ。
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