クソおやじ
それからなんとなく、上下威無人に目がいくようになった。
いつもひとりで教室でぼーっとしているか、本を読んでいる。人と話すときは丁寧な口調で、怒るところを見なければ、声を上げて笑うところも見ない。いつも貼り付けたような笑顔を浮かべているだけだ。
感情の起伏がほとんど見られない。
体育の授業でもよく見れば手を抜いているのが分かる。走るのも、ボールを追うのも、下手な人の真似をしているように見えた。
(変な奴……)
よく見れば誰でも気づいたかもしれない。でも彼は地味すぎて誰も目をかけない。まるで何かをひっそりと隠しているかのようだった。
ひとつ気づけばいろんなことに気付き始める。
彼が阿多地のグループに目を付けられていたことも知った。あの時の汚れはそれなのかもしれない。
違和感が大きくなっていく。
しかしそれが何かまでは分からない。
時折上下威無人を観察しながら、翔子はこれまでと変わらない普通の生活を送っていた。
あれからアキラとも会っていない。
できるだけ街に行かないようにはしていた。でも家にいても窮屈だ。
その日、やはり親と派手に喧嘩をして、翔子は家を飛び出した。
「ふざけんなクソおやじ」
翔子の父親はすぐに手が出る。
頬が熱い。殴られたのだ。少し成績が落ちた。それだけのことで。
ふらふらと足は街へと向かう。むしゃくしゃした時は馬鹿なことで大笑いするに限る。中身のないアホな会話でも、楽しめればそれでいい。
「よすー。おひさじゃん?」
「よす。カナ」
いつもたむろっている場所に同じようにカナがいた。カナは家へ帰っているのだろうか。そう思うがそんなことは聞かない。
「なんかあった?」
「クソおやじがむかつくー」
紫煙をくゆらすカナに、愚痴をぶちまける。
「ふーん。ショーコは心配してくれる親がいるんだ」
「心配とかじゃないよ。子供は親の所有物じゃないっての」
はあーっと溜息を吐く。吐き出せただけでも気持ちが軽くなる。こんなアホな話ができるのも、カナだからだ。
この場所で、時々馬鹿にならないと、自分を忘れそうになる。
ふーっとカナが煙を吐き出した。
「ね、楽しいとこ行かね?」
「楽しいとこ?」




