変な奴
「なんですか?」
何事もなく去って行きそうになる上下威無人を引き留める。
「礼くらいするよ。ていうか、殴られてたけど、大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ」
たしかに、あれだけ強く殴られていたようなのに、痣も傷も見当たらない。
「大丈夫ならいいけど……。で、何食べたい?」
「え?」
「お礼だよ。助けてもらったんだし、何か奢るよ。何食べたい?」
上下威無人が何かを考える仕草をした。
「すみません。僕、今日のおやつはもう決まってまして」
「はあ?」
「後日、改めてということはできますか?」
「え……。まあ、いいけど……。明日とか?」
「はい。では、明日にでも」
行儀良く頭を下げて、上下威無人が帰って行った。
「変な奴……」
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翌日。昨日の場所で待っていると、上下威無人がやって来た。
「お待たせしました」
「いや、大丈夫だけど……。なんか汚れてない?」
「そうですね」
彼が何故汚れていたのかは、後日知ることとなる。
上下威無人が甘いものがいいと言うので、ドーナツ屋にやって来た。翔子もよく行く店だ。
「こ、こ、こ、こんなに種類があるのですね……」
「あんた来たことないの?」
「ありません。ひとりでは歯止めが利かないので……」
どういう意味なのだろう?
食べたことがないと言うので翔子が3つ選んでやった。飲み物も注文し、席に座る。
ドーナツに恐る恐るかぶりつくと、気に入ったのか、もふもふと夢中で食べ始めた。その姿は小動物のようで少し可愛い。
「ご馳走様でした。世の中には美味しいものがこんなにたくさんあるんですね……」
なんだかまだ物欲しそうにショーケースに目をやっている。
「今度自分で買いに来たら?」
「そうですね。姉さんに頼んでみよう」
ちょくちょく出てくるお姉さん。何者なのだ?
「これで貸し借りなしね」
「はい。ありがとうございました」
「いや、礼を言うのはこっちなんだけど……」
そのまま店の前で別れた。
「変な奴……」




