ショーコ
「ねえ知ってる? 雄磨君何か大変な病気が見つかって、療養するために長期入院するらしいよ」
「まじ?! あ~、目の保養がなくなった~」
阿多地雄磨が学校に来なくなり、いろんな人が噂をしていた。
阿多地雄磨。成績優秀、眉目秀麗、運動神経抜群で性格も良しと、いいとこどりの人気男子だった。
まさに学校のアイドル的な存在で、目の保養、推しにしていたものは数知れず。
そんななか、山木翔子は同時期に教室に来なくなったクラスメイトのことを考えていた。
「上下君も姿見せないよね」
「え? 誰だっけ? ああ、あの地味~な子? そういえば見ないねぇ」
誰も彼のことなど気に留めていない。
翔子もあの一件がなければ、彼のことなど気にしなかったかもしれない。
いつもひっそりと目立たないように、教室でも本をめくっていただけの彼のことなど。
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「うるせーんだよ! くそじじい!!」
上着を掴み、外へと駆け出す。
もう夜。高校生が出歩いていれば補導されてしまうような時間だ。
だが翔子には家に居場所がなかった。
そうなれば居場所を求め、外へと飛び出していくのは当たり前のことだろう。
街は明るい。暗がりもあるが、仄かな明かりに虫が集まるように、居場所のない者達が集まる。
「よす。ショーコ」
「よす。カナ」
フルネームなど知らない。ただここで会う顔見知り。友達とも言えないが、同じ境遇同士肩を並べていられる仲間だ。
「吸う?」
カナがタバコを差し出してくる。
「いややらんて。その臭い好きじゃないんだってば」
「真面目~」
同い年くらいだったと思うカナは、大きく息を吸って紫煙を吐き出す。
「慣れれば美味しいよ」
「お金もないよ」
タバコも近頃は値上がりして高い。
「慣れればなんて、Hみたい」
カナがケラケラと笑う。
「ショーコはまだなんでしょ?」
「まだだけど。やだよ。そこらへんの人とやるとか」
「好きな人とかいないの~? 気持ちいいのに」
翔子は分かっている。カナと自分は同じ世界にいるようで少し違う。でも他に居場所もないのでここにいるしかない。
中身のない。頭の悪い会話。分かっていてもほっとする。自分だけがここにいるわけではない。
ひとりは寂しい。孤独は悲しい。だからここにいるしかない。




