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恋バナの夜

 入浴後、生徒たちが談話室に集まった。


 みんなパジャマ姿で、髪を乾かしながらおしゃべりしている。


「タマキさんも一緒にお話しましょ!」


 リナに手を引かれ、私も輪に加わった。


 パジャマ姿の少女たち。

 薄いシルクやコットンの生地越しに、体のラインがうっすら見える。


(相変わらず刺激が強い……)


---


「ねえねえ、恋バナしようよ!」


 サラが提案した。


「恋バナ……?」


「そう! みんな、好きな人とかいないの?」


 女の子たちがざわめく。


「サラちゃんはどうなの?」


「あたし? あたしはねー……」


 サラが顔を赤くした。


「実は、剣術科のカイト先輩が気になってて……」


「えー! カイト先輩!?」


「かっこいいよね、あの人!」


 女の子たちがキャーキャー騒ぐ。


 私は——複雑な気持ちで聞いていた。


---


「どこが好きなの?」


「えっとね……筋肉がすごいの」


 サラが恍惚とした顔になった。


「腕とか、胸とか……訓練で汗かいてるところとか……最高」


「分かるー! 男の人の筋肉って、いいよね」


 女の子たちが同意する。


(筋肉……か)


 前世の俺には、まったく理解できない感覚だった。

 俺が興味あるのは——女の子の柔らかいところだったのに。


---


「ねえねえ、もっと突っ込んだ話しようよ」


 サラが悪戯っぽく笑った。


「突っ込んだ話?」


「そう。エッチな話」


 空気が変わった。


 女の子たちがざわめく。


「サラちゃん、タマキさんもいるのに」


「いいじゃん、タマキさんもお姉さんなんだし。むしろ教えてほしいくらい」


(教えるって……俺、三十年間童貞だったんですけど……!)


---


「ねえ、みんなはどこまでしたことある?」


 サラが聞いた。


「キ、キスくらいは……」


「手を繋いだことある」


「私は……まだ何も」


 女の子たちが恥ずかしそうに答える。


「サラちゃんは?」


「あたし? あたしはね——」


 サラが顔を赤くした。


「カイト先輩と……一回だけ……二人きりになったことがあって……」


「えっ!?」


「何があったの!?」


 女の子たちが身を乗り出す。


---


「訓練の後、片付けを手伝ってたら……二人きりになっちゃって」


 サラが恍惚とした顔で語り始めた。


「で、先輩が急に近づいてきて……『可愛いな』って」


「きゃーっ!」


「それで? それで?」


「それで……頭を撫でられて……耳元で『今度、二人で会わないか』って……」


「やばい! 何それ!」


 女の子たちが興奮している。


 私は——固まっていた。


(これ、俺も聞いてていいのか……?)


---


「で、どうなったの?」


「その時は……緊張しすぎて逃げちゃった」


「もったいなー!」


「でも、あの時、先輩の体が近くて……筋肉が当たって……」


 サラが自分の体を抱きしめた。


「すっごくドキドキした。体が熱くなって……変な気持ちになって……」


「分かる! 私もそういうのある!」


 別の生徒が同意した。


「男の人に近づかれると、なんか……ゾクゾクするよね」


「胸がドキドキして、お腹の下あたりがキュンってなる」


(なんの話をしてるんだ、この子たちは……!!)


---


「タマキさんは?」


 サラが急に振ってきた。


「え?」


「タマキさんも、そういう経験ある?」


「そ、そういうって……」


「男の人に触られて、ドキドキしたこととか」


 女の子たちの視線が集中する。


「な、ないよ!」


「えー、本当に?」


「本当だって!」


「じゃあ、女の子に触られてドキドキしたことは?」


「それは——」


 お風呂で、サラに胸を触られたことを思い出した。


 確かに——ドキドキした。


 でも、それは——


「……ノーコメント」


「あ、なんかあるー!」


「タマキさん、顔真っ赤!」


「からかわないで!!」


---


「ねえ、初体験ってどんな感じなのかな」


 リナがぽつりと言った。


「初体験……?」


「うん。本で読んだことはあるけど……実際はどうなのかなって」


 女の子たちが静かになった。


「痛いって聞くよね」


「でも、好きな人となら……幸せなんじゃない?」


「どんな気持ちになるんだろう……体が溶けるような感じ?」


(この話題はまずい……!!)


 前世の俺なら——こんな話、興奮して鼻血が出ていただろう。


 若い女の子たちが、初体験について語り合っている。

 これ以上のエロシチュエーションがあるか?


 でも——今の俺は違う。


 ただただ——困惑している。


(俺、寮母なんだよな……? こんな話、聞いてていいのか……?)


---


「タマキさん、どう思います?」


 リナが聞いてきた。


「ど、どうって……」


「初体験って、素敵なものだと思いますか?」


 リナの瞳が潤んでいる。

 まっすぐに、私を見つめている。


「……好きな人と、大切にすれば……素敵なものになると思うよ」


 精一杯の答えを絞り出した。


「タマキさん……」


 リナが嬉しそうに微笑んだ。


「私、タマキさんみたいな人が先で良かったです」


「先って……何が?」


「なんでもないです」


 リナが顔を赤くして、視線を逸らした。


(今の……やっぱり何かおかしくないか……?)


---


「でもさ、男の人って信用できなくない?」


 別の生徒——エマが言った。


「え、どういうこと?」


「だって、男の人って……女の体のことしか考えてないじゃん」


 女の子たちがざわめく。


「それは……あるかも」


「訓練中とかさ、胸のあたりジロジロ見てくる人いるよね」


「いるいる! 気持ち悪い」


(……)


 私は——無言で聞いていた。


---


「男の人って、結局、獣みたいなものなのかな」


 エマが続けた。


「女の子を見ると、すぐエッチなこと考えるんでしょ?」


「そうだよね。だから怖い」


「付き合ってても、体目当てだったらどうしよう、とか思っちゃう」


(……)


 私の心に、重い石が落ちた。


 前世の俺——まさに、そうだった。


 女の子を見れば、体のことを考えた。

 胸の大きさ、お尻の形、太もものライン——

 そんなことばかり、考えていた。


(俺……獣だったのか……)


---


「タマキさん、どう思います?」


 エマが聞いてきた。


「男の人って、やっぱり信用できないですか?」


「え……」


 答えに詰まった。


 前世の自分を思い出すと——とても「信用できる」とは言えない。


 でも——


「……みんながみんな、そうじゃないと思うよ」


 精一杯の答えを絞り出した。


「ちゃんと相手の気持ちを考える男の人も……いると思う」


「そうかなー」


「うーん、タマキさんが言うなら、そうかも」


 女の子たちが納得したように頷く。


---


(俺……反省しないとな……)


 前世では、女の子を性的な対象としか見ていなかった。

 胸が大きいとか、足が綺麗だとか——そんなことばかり。


 でも、今こうして女の子たちと話していると——

 彼女たちにも、悩みがあって、不安があって、夢があって——


「ごめんな……」


 思わず、小さく呟いた。


「タマキさん、何か言いました?」


「ううん、なんでもない」


 前世の全ての女性に——心の中で謝った。


(俺、生まれ変わったんだ。今度こそ——ちゃんとした人間になろう)


---


「でも、タマキさんみたいな女の人なら、男の人も信用できそう」


 リナが言った。


「え?」


「タマキさんって、優しいし、ちゃんと私たちの話を聞いてくれるし」


「タマキさんが男だったら、絶対モテると思う」


(男だったら……いや、元男なんですけど……)


「タマキさん、顔が複雑になってますよ」


「き、気のせいだよ!」


---


「タマキさんは? 好きな人いないの?」


 リナが聞いてきた。


「え、私?」


「タマキさん、綺麗だし、モテるでしょ」


「いや、そういうのは……」


「恋人いないんですか?」


「いないけど……」


「じゃあ、どんな人がタイプ?」


 女の子たちが身を乗り出す。


(どんな人がタイプって……俺は元男だぞ!?)


---


「えっと……優しい人?」


 無難な答えを返した。


「タマキさん、照れてる!」


「可愛いー!」


 女の子たちがはしゃぐ。


「タマキさん、男の人と付き合ったことあるの?」


「え……」


 答えに詰まった。


 前世では——女の子と付き合ったことがない。

 このまま答えれば「ない」になる。


 でも、今の俺は女だ。

 女として「男と付き合ったことがない」というのは——


「……ない、かな」


「えー! 意外!」


「タマキさん、可愛いのに」


「きっと奥手なんだよ」


 女の子たちが勝手に盛り上がる。


---


「じゃあ、キスは?」


 サラがにやにや聞いてきた。


「キス……?」


「男の人と、したことある?」


「な、ないよ!」


「じゃあ、女の子とは?」


「え?」


「女の子同士で、練習したりしないの?」


 サラが悪戯っぽく笑った。


「し、しないよ!」


「タマキさん、顔真っ赤」


「からかわないで!」


---


「ねえ、タマキさん」


 リナが私の隣に座った。

 肩が触れ合う距離。


「私、恋愛って憧れるんです」


「そう……なの?」


「はい。誰かを好きになって、ドキドキして……」


 リナが私を見つめた。

 潤んだ瞳。上気した頬。


「タマキさんも、そういうの……分かりますよね?」


 リナの顔が近い。

 唇までの距離が——数センチ。


「り、リナ?」


「……なんでもないです」


 リナがふいっと視線を逸らした。


 心臓がバクバクする。


(今のは……何だったんだ……?)

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