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転生先は女子寮

 私の名前は、黒川正志。

 享年三十歳。独身。工場勤務。


 趣味はパチンコと競馬。

 彼女いない歴、三十年。


 つまり——人生で一度も、女性と付き合ったことがない。


---


 その日、私は残業帰りに交差点で信号待ちをしていた。


 疲れていた。いつも疲れていた。

 工場の単純作業。上司の嫌味。同僚との人間関係。


 ふと、空を見上げた。


(俺の人生、何だったんだろうな)


 そう思った瞬間——


 トラックが突っ込んできた。


---


 気がつくと、私は真っ白な空間にいた。


「お目覚めですか」


 声がした。振り向くと、銀髪の男性が立っていた。


「私は転生神ツクヨ。あなたを異世界へ導く者です」


「転生……?」


「はい。あなたは先ほど、トラック事故で亡くなりました」


 そうか、死んだのか。

 不思議と悲しくはなかった。むしろ——解放された気がした。


「黒川正志様の魂には、『世話焼き』の才能があります」


「世話焼き……?」


「工場の後輩の面倒を見て、独身なのに甥っ子姪っ子の世話をして、近所の猫にも餌をあげて」


「それ、単に暇だっただけでは……」


「いえ、立派な才能です」


 ツクヨが微笑んだ。


「この才能を活かせる転生先があります」


---


「女子寮の寮母、ですか」


 私は目を疑った。


「はい。冒険者養成学校の女子寮です。住み込みで、生徒たちの生活をサポートする仕事です」


「冒険者……養成学校?」


「説明が必要ですね」


 ツクヨが手をかざすと、空中に映像が浮かび上がった。


 中世ヨーロッパのような街並み。石畳の道。木組みの家々。

 空には巨大な鳥のような生き物が飛び、遠くには尖塔のある城が見える。


「転生先は、魔法と剣の異世界です」


「異世界……」


「かつて魔王が存在し、勇者がこれを討ち払いました。今は平和な時代ですが、魔獣はまだ各地に棲んでいます」


 映像が切り替わる。

 剣を振るう若者たち。魔法を放つ少女たち。


「冒険者たちが魔獣を討伐し、人々を守っています。その冒険者を育成するのが——冒険者養成学校です」


「なるほど……」


「そして、その学校の女子寮で寮母を務めていただきます」


「いや、待ってください。私は男なんですが」


「ああ、それなんですけど——」


 ツクヨが言葉を濁した。


「女子寮ですので、男性は入れないんですよね」


「じゃあ無理では?」


「なので、女性として転生していただきます」


「……は?」


---


「体は二十二歳の女性になります」


 ツクヨが淡々と言った。


「前世の記憶はそのまま。性格もそのまま。ただ、体だけが女性になります」


「いやいやいやいや」


「ご安心ください。女性の体は意外と便利ですよ」


「便利とかそういう問題じゃなくて!」


「拒否権はありません。すでに手続きは完了しています」


 ツクヨがにっこり笑った。


「では——行ってらっしゃい」


 視界が光に包まれた。


---


 目が覚めると、私は見知らぬ部屋にいた。


 木造の部屋。質素なベッド。古びた机。

 どこかの寮の個室のようだ。


 窓の外を見ると——石造りの建物が並んでいた。

 中世ヨーロッパを思わせる街並み。石畳の道。木組みの家々。

 空には、巨大な鳥のような何かが飛んでいる。遠くには、尖塔のある城が見えた。


 ここは——魔法と剣の世界。

 かつて魔王が存在し、勇者がこれを討ち払ったという。

 今は平和な時代だが、魔獣はまだ各地に棲み、冒険者たちが活躍している。


 そんな世界の——冒険者養成学校。

 私は、その女子寮の寮母として転生したらしい。


「……ここは」


 声が——高い。


 自分の声じゃない。女性の声だ。


「っ……!」


 慌てて体を確認する。


 胸がある。腰がくびれている。お尻が大きい。

 手も足も細い。肌も白い。


「嘘だろ……」


 部屋の隅に、小さな鏡があった。


 恐る恐る覗き込む。


 そこにいたのは——栗色のショートヘアの、地味めな女性だった。


 二十代前半に見える。目つきは少し鋭いが、どこか親しみやすい顔立ち。

 胸は——まあまあ、ある。大きくもないが、小さくもない。


「これが……俺?」


 信じられなかった。


---


 私は——いや、俺は、自分の体をまじまじと見つめた。


 白い肌。細い腕。くびれた腰。

 そして——胸。


 服の上からでも、膨らみが分かる。


(触って……みるか?)


 三十年間童貞だった俺の本能が囁く。


 恐る恐る、手を胸に当てた。


「っ……」


 柔らかい。

 自分の手で、自分の胸を触っている。


(これが……おっぱいか……)


 心臓がバクバクする。

 顔が熱くなる。


 もう少し、揉んでみたい——


「って、何やってんだ俺!!」


 我に返って、手を離した。


(いや、でも……これ俺の体だよな? 自分の体を触って何が悪い?)


 理屈は通っている。

 でも——何かが違う。


---


 ふと、気づいた。


(あれ?)


 前世なら、女の体を見て——触って——興奮していたはずだ。

 ドキドキして、息が荒くなって——


 でも、今は違う。


 確かにドキドキはしている。

 でも、それは「興奮」じゃない。

 ただの——「恥ずかしさ」だ。


(嘘だろ……)


 俺は愕然とした。


(三十年間夢見てきた、女の体を好きなだけ触れるチャンスなのに——)


 体が反応しない。

 興奮しない。

 息が荒くならない。


(この体……女だから……興奮できないのか……!?)


 それは——地獄だった。


 目の前に最高のご馳走があるのに、食欲がない。

 そんな感覚。


「なんてことだ……」


 俺は——膝から崩れ落ちた。


「こんな……こんな罰ゲームがあるか……!」


 三十年間の夢が、一瞬で打ち砕かれた。


---


 部屋のドアがノックされた。


「寮母さーん、起きてますかー?」


 若い女性の声だ。


「は、はい!」


 慌てて返事をする。


「朝ごはんの準備、手伝いに来ましたー」


「あ、ありがとう。今行きます」


 私は——いや、「私」は、新しい人生の第一歩を踏み出した。

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