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さっきの大部屋に置いた荷物を回収しに戻ってきた。

釉柳妃の侍女の過ごす部屋に向かうことになる。

希㐴と薊泈も何故か一時的に付いてきた。

荷物持ちをしてくれるらしい。


「ありがとう。別に、大丈夫だったのに…。」

「いやいや、こんな大出世したら、そりゃあ友達面するよ。」


(あまりにも打算的すぎる……。)


「では、ここが部屋になりますので、荷物を置いたら猫柳の紋様の部屋に来てください」


侍女頭と予測できるその女性がそう言って、出ていった。


一気に緊張の糸が切れた。


「なんかあの人すごい偉い地位っぽい…。怖い。」


荷物を置きながらだらしなく呟いた。


「そりゃ、ここで地位を持ってる人はみんな元々ある程度の権力あるよ。」

「ないのは私だけか…。」


ここに何故か気に入られて成り行きで入ってくるのなんて。

しかもそれなりに偉い宮貴妃の元に。


「そもそも私に教えられることなんてあるのか。」

「無能として追い出されないようにね〜。」


「本望だけど。」

「斜に構えているのね。」

「悪口?」


すらっとお嬢様から出てくる『斜に構えてる』は中々の切れ味だ。


「よし、荷物置けたから行くか。」


部屋を出て、猫柳の紋様のある部屋を探す。

何個か部屋があり、その中に幾つか、行李柳や枝垂柳などの他の柳の紋様が描かれていた。


廊下にはコンソールテーブルがあり、その上に花瓶があり柳と他の花が生けてある。

如何にも和洋折衷なデザインで宮貴妃は違うな…とつくづく実感した。


外交は役人だけが行え、個人での貿易は行えないため、家具となると国内の物が世俗では主流だ。


しかし、衣服に関してだけは、洋服が混ざったことで和服はあまり着なくなってしまったらしい。

労働階級は結局着やすい服が1番だと聞いたことがあったが、まさにこのこともだろう。


少し先に進むと寄木細工の施された飾り棚が扉の横に設置されていた。

ほんのりと明るい桜色に塗られた飾り棚の中に豪華な装飾のあしらわれたアームレットが入っていた。


「綺麗…!あ、部屋はどこだっけ。」


ふと思い出して、この部屋のドアを見る。

ドアに猫柳の紋様が描かれているのを確認した。

ノックをして、入室許可を得たので、ドアを開ける。


「失礼します…。」


頭を下げると、釉柳妃が頭を下げるのを頭上で感じた。

そして釉柳妃が頭を上げたのを確認して頭を上げた。


「改めて、釉柳と申します。宮貴妃の柳を務めております。」


「私は雁蘭といいます。植物についてを元々学んでおりました。」


挨拶すると、侍女頭のお隣にいた少女が話しかけてきた。


「どこ出身かしら?」

「ちょっと、楓貴(ふうき)…。」


慌てて釉柳妃が止める。

流石に、出自を聞くのは失礼に当たるのだろう。


「宇儂です。踊煙宮の近くに住んでます。」


「自己紹介ありがとうございます。私共も名乗らせていただきます。」


侍女頭が先陣を切って空気を変え。

何かしらの敵意を感じたが、気にしても仕方ないので辞めた。


(わたくし)鍵珠(かぎたま) (そう)と申します。釉柳妃の侍女頭を務めております。ある程度の決まりについては後ほど説明しますね。」

「で、こちらが楓貴。自己紹介しなさい。」


その楓貴と呼ばれる子はフラフラとクッションから立ち上がると挨拶しだした。


「私が御存知の通りの楓貴(ふうき)よ。」

「あんたは売女なのかしら?」


楓貴の挑発と伺えるその発言で一瞬で空気が凍った。


「はぁ?貴方失礼すぎない?仮にそうじゃなくても許されないんだけど。蔑称使ってんじゃないよ。」


希㐴がその沈黙を破って文句をつけると、再び時間が流れ出したかのように、慌てて他の人間が動き出した。


「ふ、楓貴…!私どもは貴方をそう認識してはおりませんし関係ありませんから。」


私も例に漏れず、ようやく状況を理解した。


曽祖父と父は宮との取引のある豪商の書記を務めて各地を回っていたし、なにより一族も無名でこそ無いと思っている。


「いや…一応、宇儂の役人の下ですが…。」

「え、そうだったんですか!?」


釉柳が急に愕然とした声を上げてカップを落とした。

そんな反応をされると思ってなかったため、困惑が漏れてしまった。


「えっと…?」


「いや、あの…近々、妹が上宮(じょうきゅう)してしまうと嘆かれていた総合帳簿士(ちょうぼし)様がいるのですが…やはり。」


帳簿ということは恐らく安紀のことだろうが、自分の失態だと言うのになぜ嘆いてるのだろう。


「もしかして……安紀ですか…。あの、恐れ入りますが、上宮ってなんですか。」

「あぁ、宮に働きに上がることを言います。」


「危険なことをした」と慌ただしくしたあと、一呼吸置いて落ち着きを見せて、釉柳は頷いた。


「えぇ、安紀様です。」


それにしても、安紀と釉柳妃はどうして面識があるのだろう。


「ふふ、とても疑問そうな顔してますよ。安紀様には先日の地方財政管理の会合があったときにお会いしました。」


「何やら頭を抱えていらしたので、解決できるかもと思い至りお伺いを立てたんですよ。」

「どうやら、詐欺に引っかかったようで半ば恫喝といった形で身請けさせられたそうですね。」


いくら感情移入しやすく騙されやすい安紀でも、流石に同情で結婚までしたわけではないみたいで少し安心した。

それでも、詐欺で結婚させられたというなら、やられっぱなしも不服なものである。


「渋い顔してますよ?しかし…証拠がないみたいですねぇ。」

「流石に、最近飛ぶ鳥落とす勢いの実力者の、総合帳簿士様に頼まれると、調べるしかないんですが…。」


釉柳が少し苦い顔をした。

宇州の長である比家(たぐいや)と、宮の税関係の役人たちで板挟みになっているのだろう。


「今度皇帝様がいらっしゃるときに伝えてみるんですが…。」

「お気遣い頂きありがとうございます。」


このあと、仕事の説明があるみたいで、希㐴と薊泈、楓貴が部屋を出ていった。

釉柳妃と侍女頭、そして私だけが部屋に残った。

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