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「荷物持った?」

「うん一通りは。」



慌ただしく周りが準備に勤しむ中、当人は案外落ち着いていた。

荷物の再確認も終わり、パラパラと本を捲っていた。


周りは準備が一通り終わったようで、妹が私の部屋に来た。


「どう?化粧するよ。」


そう言って入ってきた妹の手を払い除ける。


「いい、いい、自分でするから。」

「でも巾着袋取ってきてくれない?」


棚の引き出しから貰っていた化粧道具を取り出した。

妹が行ったのを確認して、姉を連れて鏡の前まで行って化粧を始める。


自分の顔を化粧するのは他人に化粧をするのとはまた違って、かなり苦戦していた。

案の定そうだろう、と姉は私から道具を受け取って化粧してくれた。


完成形は別人のようになっていた。

が、欲を言うと、師匠の方が上手く出来ていた。


「師匠のほうがうまいねぇ。」

「は?それがやって貰う人間の立場か。」

「ありがと、ありがと。」

「いや…」


姉が言い掛けた時、ガチャ、と扉の開く音がする。


「お姉ちゃんたち、いる?」


頼まれ事を終えた妹が部屋に入ってきた。


「これ、巾着袋。何その顔!化粧は?」


妹が呆然とした顔をしながら、巾着袋を渡す体制のまま固まってしまった。

一通り喋ったあと、口をハクハクさせながら怒った顔をする。


「ありがとう。化粧はもうしたよ」

「知ってるよ。何その化粧、可愛い顔がもったいない!」


漸く状況を理解したみたいで今度はぎゃあぎゃあ怒り出した。


「いらない、とりあえず隠さなきゃいけないから。」

「ねーえ、皇帝様が腰元とか下女として入ってくる子を見て、気に入ったら入内できるかもしれないの!綺麗にしよう?」


今度は諭すように話し始めた妹に溜息をつく。


「だから、目をつけられないように化粧をしたんだけど。」

「でも…、」


また扉が開けられた。

今度入ってきたのは榎禾で、仁王立ちをして叫ぶように呼びかけた。

おかげで妹の言葉が遮られてしまった。


「乗り物が来たよ。準備して。」


妹は声を上げようとして黙った。

この女に関わって良いことのないというのは暗黙の了解となっていた。


行ってくる、と声を掛けて家を出て、少し先にある車の止まっている場所に向かった。



車はかなり大きく50~60人がざっくり乗れると見込めた。

1階と2階に分けてある造りで、入り口から乗り込んで運転手に挨拶する。


雁蘭の前にも乗り込む人は居たが皆、運転手を見向きもせず、友達同士で喋りながら歩いていた。


(運転手が、苛立って荒い運転したらどうするんだ。)


私はなんて考えて、トラブルになるのは面倒臭い、という精神で常に挨拶だけはしている。


「おはようございます。よろしくお願いします。」


運転手は、お!という顔をして、機嫌の良さそうな声色で挨拶を返してくれた。

適当な席に乗り込み、外を見ていた。


雁蘭が運転手に挨拶したことで、真似をする人がポツポツと出てきていた。


雁蘭が乗ったその後もまだ乗る人は後をたたない。


(なんで、こんなにここから出る人が多いんだろう。去年もこんな感じなのか?)


疑問に思いながら入り口を眺める。


全体的におめかしした人が多いのは、皇帝が見に来ているという噂に合わせているのだろう、と予測がつく。


最後の一人が乗ったのを運転手が確認すると、出発した。

あと2箇所ほど回った上で宮の方に向かう。


他の席は相席だったり知り合い同士で隣り合っているのに、何故か私の隣には誰も来ない。


ちょっと悲しかったが周りを観察しておこう、と考えた。


こんな新興地域でも、派手な容貌の娘は少なくなかった。

気になるのが、宇勺(うしゃく)のところの長女次女が乗っていることだ。


多分、妃として入るのだろう。

流石に下働きな訳はない、よな…。


考えている内に眠ってしまっていた。


目覚めたのは、隣に座ってくる人が居たからだ。


「おはよう、よろしくね。」


狐目を更に細めた涅色の瞳が髪の毛から覗く。

ギョッとして目を逸らした先で外が見えた。


外はだいぶ都会に近づいてきていて、最後の停留所まで着いていた。

まだ全員は乗ってないみたいで、ドアは開きっぱなしだった。


「えっと……、おはよう?」


寝起きのはっきりとしない声で挨拶した。


「隣、大丈夫だったかな?」

「あぁ、うん。全然。雁蘭です。」

「雁蘭ちゃん、ね。私は希㐴(のぞは)だよ。」


顔自体に特徴はないが、艶のある手入れされた髪に、動くとふわっと香る麝香からいい身分の娘だと分かる。

愛嬌があるので笑顔を作ると一際品の良さが際立つ。



「すみません、遅れました!」


ドタドタとお世辞にも品のいいとは言えない足音を鳴らしながら走ってきた女の子がいた。

運転手が名簿に印をつけたあと、名簿をしまったので彼女で最後だろう。


厚手の布製のボストンバッグにこれでもかと言う程荷物が詰め込まれてパンパンになっている。


その子が座ると運転手が先程よりもよりも速い速度で運転しだした。

時間が遅れているからだろう。


皇帝サマはお怒りになるのだろうか。


(それで、こっちにまでしわ寄せが来たら嫌だなあ……。)


徐々に都会になっていく景色を眺めながら到着を待った。

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