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「おいちゃーん!」

「おう、どうした。元気してたか」

「うん、でもさ…」


姉が花魁と思えないほどの砕けた口調で、扇屋の店主と話す。

それを横目に聞き流しながら商品を見た。


この扇屋さんは煌燦扇(おうさんせん)という店で、たまに宮に商品を持って売り出すというくらいな人気っぷりらしい。


白檀で出来た扇骨は均衡が取れており、親骨には蒔絵がされている。

扇面の和紙も質がよく、これまた扇絵が器用だった。

最近は要が角だけじゃなく鼈甲も使われている。

閉じてみるが歪みもない。

宮に持っていくのにも十分なものだとわかる。


「宮に行くのか!?」


その声に思わずびっくりして振り返る。


「な、何もそんな顔しなくても…お嬢ちゃん…。」


あんまり気づかなかったが、かなりうざったがっている顔をしていたみたいだ。


「お嬢ちゃん、凄いな。夢があるぞ。」

「は、はぁ。」

「もしかしたら、あの皇帝さまをお目にかかれるかもしれないなー。」

「そうですかね。」


適当に返事すると急に何かが手に乗せられる感触があった。

姉が横からあった商品を手に置いた。


「さっき見てたでしょ、買ってあげる。」

「え、いや…大丈夫。」


雁蘭と姉が押し問答しているのを見かねた店主が気まずそうに言い出す。


「よかったら安くしてやろうか。」

「そ、そんな悪いです…。」


慌てて手に置かれた商品を元の位置に戻した。

店長はそれを面白そうに微笑ましく見ていた。

思わず雁蘭は睨みつける。


「お嬢ちゃん、怖いな。そんなんじゃ宮で相手見つからないぞ。」

「お嬢ちゃんの美貌なら皇帝さまのお眼鏡にもかなうかもしれないからね。」


蒲色のような金木犀色のような、そんな色にグラデーションになっている雁蘭の瞳は、少し縦長な瞳孔と相まってほんのりと猫のような鋭さを感じさせる。

幼い顔立ちに少し無愛想を感じさせる目は確実に一部の変態(マニア)に限らず多くの人を虜にするだろう。


(いや、いらないし…。皇帝さまに目をつけられるなんてあるわけない。)


「年季明けたら帰ってくる予定なんで…。」

「そうかい。お、そうだ。お嬢ちゃんも作ってみるかい?」


思わぬところから貴重な経験が転がり込んできた。

絶好なチャンスにも関わらず、準備も終わってないから出来ない。

1日で終わるのかも分からず簡単に了承しづらい。

悩んでいると横から姉が、話しかけてきた。


「準備どれくらい終わってる?」

「あー。えっと、あと歯磨きグッズと洗浄料を…だけだ!」


残りのする事を考えて、やる気が落ちていたが割と少なかった。


「ちょっとやってみるか?」

「どのくらいかかるん?」


姉が確認してくれる。


「5,6日かな。どのくらいのを作るかにもよるがね。」

「じゃあ、難しいかもしれません。明日から行くので」


確認なしに受け入れなくてよかった。

そう思ってホッと息を吐いていると、目の前で店長が大声を上げていた。


[えぇ!?お嬢ちゃん…大変だな。これで良かったらただであげるよ」


そう行って扇を渡された。

素材こそ一品だが、和紙の端が少し崩れて扇絵が少しズレていた。

扇骨の歪みは感じられない。


これなら貰ってもそこまで店の損失にはならないだろう。

そう思ってありがたく受け取ることにした。


「なら是非頂きたいです。ありがとうございます」


私が貰うと、姉は私を引き摺って家に帰った。




「何?何。」


家で不機嫌にそう聞くと、姉はぶっきらぼうに返してきた。


「いや、覚えてない?あそこの奥さんガミガミしてるから貰ったものに金払わせられるかもしれないじゃない。」

「そんなの嫌よ。」


姉はこういうところがかなり計算高いと思う。

貰った物だから、と弁明するのでなく、その場に鉢合わせ無いようにするというのは、ちょっと狡賢いくて好きじゃない。


「そうなのかも知れないけど、あんなあからさまなのは恥ずかしい。」


恥なんて気にしてたら生きてけない、姉はそう言い捨てて私の荷物の準備を手伝ってくれる。

衣服のチェックと日記の確認をしてくれて、先程ペンとインクを入れ忘れていたことに気付けて、入れておいた。


「…さて、晩御飯の準備しようか。」


姉に誘われ自室を出る。


慣れない手捌きで食材を切りながら、料理をする。

(なんで、私もさせられてるの。)



榎禾は早めに食べ終わって、不機嫌な顔で果物を啄んでいた。

周りはいくら豪勢なご飯を食べた後でも、慣れた味に久しぶりに落ち着いて食事をしていた。


雁蘭は、明日のことがあるので、心の準備も含めて少し足早に食事を済まそうとしていた。

皿に乗っていた鮎の塩焼きと茹でた根菜が空になる。


「ふぅ、久しぶりに庶民的なご飯食べたかも。」

「もしかして、それって嫌味だったりする?」


さすが花魁、気付くのが早い。

そう思ったが、言うのは躊躇ったので、適当に言い訳をしておいた。


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