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「あー…疲れた…」


3番目である姉が挨拶回りに行くと言って雁蘭を連れ出している。

昨日は(明日準備しよー)なんて考えて寝てしまったのでまだ荷造りが終わってない。


「ねーちゃん、帰ろ…」

「だめよ、お世話になった人に最後まで愛想よくしたほうが帰ってきたときに良いんだから!」

「帰れるかわかんないのにそれ…?」


は?という低い声が耳に響いた。


(おっと、ねーちゃんを怒らせてしまった。)


「絶対帰ってきなさい。」


化け物のような形相で怒号を飛ばされた。


「あー絶対わかってない。いい、この世は結局先立つものがなきゃやっていけないのよ。旦那様連れてくるかうちに帰ってくるかしなさいな。」


「遊女屋でその年齢まで働いて身請けが決まってないねーちゃんが言うことじゃない。」


実際は何人かから身請け話が持ち上がってるらしいが、まだはぐらかしていて決まっていないらしい。


「私ほら花魁だからさ、身請け金高いみたいで…」

「でも、花魁の中じゃ一番小さいのに」


視線を下にずらしながらちょっと煽るとアワアワしだした。


「は、ま…まぁ小さいのも魅力のうちよ」

「太夫じゃないのに偉そうぶってるの」

「う…」


俯きながらトボトボと歩き出したのを笑いながら見る。


ふと視界のうちに踊煙宮(ようえんきゅう)の看板が目に入る。

多分本来は宮なんて不敬なのだが、貴族も行くくらい大きくなったこの遊女屋は治外法権が認められてるようなものだ。


「お、(えん)と…妹ちゃんか。久しぶりだな」


遊女屋の店主さんが話しかけてきた。

何故か私も禿にしようとした異常者だ。


「どうだ、妹ちゃ__」

「なりません」


素早く否定すると苦笑された。


「というか…、これ以上遊女増やしてどうするんですか」

「なんだ、花魁が悉く身請けされていくから足りないまである。」

「引退の時期ですか、大変ですね」


雁蘭と店主で談笑していると姉が、話を切り出した。


「あぁ、そうそう。この子が宮に行くことになりまして…挨拶しに来ました」


どの子だい、と店主が辺りを見回した。


「あの、私ですけど。」

「え…、なんで。もっといい道あっただろうに。」


こちらを憐れむ目で見て、奥に行くと何かを持って戻ってきた。


「これ、持っていきな。」


袋の中に入ってるのは唐辛子の粉末だ。


「なんですかこれ」

「襲われかけたときに相手の目に掛けると良い。逃げるのに役立つよ。」


ここからでも匂いがする。

目に掛けられたらひとたまりもないだろう。

どの程度かあまり想像つかないが、実際に掛けると不敬になりそうなので、手にこすりつけるだけで興ざめしてもらおう。


「は、はぁ…遠慮します」

「なぁに、無料だから遠慮せず受け取ってくれ」

「受け取っときなさい」


ねーちゃんに言われ渋々受け取った。


ここからまた道なりに挨拶していき、商店街に着く。


「ねーちゃん、どこまで行くんだ」

「何言ってるの、店の人にも挨拶しなきゃ」


「あ、師匠」


思わず声をかけていた。


「おや、雁蘭。お姉さんと一緒なんて珍しいね」


雁蘭の植物への知識の師匠で将来的に働くはずだった店の店主だ。


「いやー…、あの例の人に宮に飛ばされることになった」

「あんなとこいくのか」


「雁蘭、例の人なんて呼んでたの…。」


姉が頭を抱えて困惑してる。


師匠は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

安心させるように雁蘭は先程あったことを話した。


「あそこの遣り手から唐辛子もらったし大丈夫」

「ちょっと詐欺化粧の仕方を教えておこうか」


師匠はそう言って、私を店の奥に連れて行った。

店前で姉が全身でお礼をしていた。

師匠はそれを見向きもせず準備をする。

師匠はこういうところが結構ドライだ。


(宮って治安悪いのか…)


「あそこは気に入られると出れないからなぁ」


そう言って師匠はなれた手付きで化粧道具を出していく。

おしろい、といえば普通白いものだがなんだか黒い。


「これ何?」

「なんだろうねぇ。」


どうでも良さそうに答える。


「え、え、え…命に関わると困るんだけど。」


焦って伝えると、健康には害がないから大丈夫だと。


「化粧道具には植物だけじゃなく、鉱物が使われることも多いんだってね。」

「へー、これは何が使われてますか。」


何だったっけ、と首を傾げる師匠に冷や汗がだらだら出る。


「師匠!?」

「あーえっと、確かに酸化鉄だったかな。赤いでしょ、これ。着色力が強いんだって。」

「うちの妹に毒を与えないでくださいよ?」


酸化鉄か…、聞いたことはある。ホッとした。

毒物かと焦ったが、比較的毒性は低いものだ。


「何だ…良かった。」


「で、これを肌に塗ってね、色を黒くするんだ。」

「唇の周りにも塗って唇を薄くするんだよ。」


眉も筆で描かれていった。


「凄い、別人だ。師匠、でもこれ戻せる?」

「うん、米ぬかでね」


困ってしまった。

お金がないから、米ぬかなんてないし、そもそも化粧道具も買えない。


やっぱりこのままでいいのかもしれない。


「師匠、やっぱり大丈夫。遠慮しとく」

「そうかい?初日の移動だけでも…米ぬかは一回分あげるし」


こんだけ勧めておいて1回分だけなんて流石地主の弟なだけある。


「その辺抜かりない。ほんと商売人」

「雁蘭もそうしなきゃだめだよ。はい米ぬか。化粧落としな。」

「あ、ありがと。」



「これ、一通り一回分ね」

「ありがと、師匠!」


「あとあそこだけ寄って帰るわよ」

「はーい…」


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