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私は逃げる。
相手も追ってくる。
速度では負けていた。
どうしようか、思案しながら走っていると自分の体が倒される。
相手が倒れ込んできた。
冷や汗が流れた。捕まった。
相手が馬乗りに座り直す。
そのまま銃を向けてきた。
(殺さない…?何を望むつもりなんだろ)
「動くな。資料を置けば殺しはしない」
「こ、殺さないから何?」
「何だお前。だから命だけは助けると言っている。罪は償ってもらうが。どうする?」
どうやら犯罪の片棒を担がせようとしてるようだ。
やりたくはない、断ったらどうなるのだろう。
殺されたりするのだろうか?
そこだけは聞いておきたい。
「おい、早く答えろ。」
「何をさせられるのかと、一応断ったらどうなるのかだけ教えて」
「…こう、だが?」
そう言って銃を構えられる。
なるほど、殺すと。
逃げるため、お尻を上げる。
さっと荷物は横においた。
そして相手の手を取り、足を巻きつける。
そのままくるっと回転させた。
成功した。
相手の股間を思うがままに殴る。
片手に荷物も持った!忘れていない。
そして走って逃げる。
向こうはしばらく悶えていている、はずだ。
少し走り続けると、応戦している鐘醴さんが見つかった。
いつのまに?なんて思いながら合流する。
「増援を呼んでおいて他の者は制圧しました。」
「はっ、俺がこっちに夢中になってるばかりに…」
「あの、勝手な行動されると困ると言いましたよね。そしてわざわざここに来ないでください。」
鐘醴さんが眉をしかめながら苦言を呈する。
酷い、私だって戦いに来たのに。
そう思い、まずさっき推し倒してきた男がこちらに向かってくるのを確認した。
私もその男と戦うことにした。
近くに棚に置いてあった陶器の置物を手に取る。
「持ち主さん、ごめん。」
けっこう重いので凶器になるだろう。
「はぁあ!」
彼のもとまで突っ込んで頭に手を振り下ろす。
相手が引き金を引くよりも先に。
ちゃんとぶつけると、男は気絶した。
しかし、陶器に血がついた。
ま、まぁまぁ…許してくれるでしょ!
脳内で適当に言い訳をしながら鐘醴さんのもとに戻る。
明らかに鐘醴さんは不機嫌な顔でこちらを眺めていた。
ちゃっかりここは制圧したようだ。
「…肝が冷えたんですけど。勝手なことしないで下さい。」
「大丈夫だって言ってるじゃん。」
陶器の置物を元の場所に置きながらそう言う。
鐘醴さんは諦めたようで半ば呆れながら笑った。
失礼な人だ。
「はぁ、持ち主のこと考えなさい。そして残念なお知らせです。」
「許してくれるでしょ……え。」
聞こえてきた残念なお知らせという言葉に体がこわばる。
「なんですか、残念って。」
「私が戦っていた一人が連絡をしました。近いうちに増援が来ると思いますね」
鐘醴さんは冷静にそう言った。
やばいじゃん、と考える前に口をついて出た。
「というわけで、逃げましょう。」
鐘醴さんがそう言うと私を抱えた。
「え、分かったけど。下ろして」
「怪我してますので運びます。」
鐘醴さんが当然のように言うので一瞬騙されかけた。
しかしそれはおかしいだろう。
なんて言ったって私が怪我してるのは顔だから。
しかも掠り傷なのだ。
「ちょ、鐘醴さんおかしいって。軽傷だし動ける傷なんだけど…」
「黙りなさい。舌を千切りますよ。」
そんな脅しに焦る。
今から高速で走るのだろうか。
私を抱えたまま??
「え、鐘醴さん。ちょっと過保護すぎな__いっ、タ!?」
私が言及しようとした瞬間、鐘醴さんが加速した。
そのおかげで舌を噛んでしまった。
鐘醴さん、ひどい…。
心の中で悲しんでいるけど、徐々に心は楽しさで埋まっていった。
鐘醴さんの本気は相当早い。
疾走感があってとんでもなく楽しいのだ。
まるで遊具のような速度感で進んでいく。
楽しんでしまい、黙っていると車の元へついた。
「急いで出て下さい。追われてるんで…」
鐘醴さんの緊張感のある一言に運転士もあぁ、となる。
すぐにエンジンが掛かり、車が動き出す。
「雁蘭さん、大丈夫ですか?さっきので舌切ってないですよね?」
鐘醴さんが心配そうに聞いてくる。
多分大丈夫だが、一応報告しておく。
「切ってはないと思う。噛んだけど。」
そう言って舌を出す。
「そうですね、軽い出血だけなんで大丈夫だと思います。」
「でしょ。これは鐘醴さんが悪いからね。」
「いや、私は黙るように言いましたが…」
言い合いが始まりかけたところに運転士が話しかけてきた。
「この追ってきてる人たちか?」
そう言われて振り向く。
1台車が走ってきていた。
かろうじて付いてきている感じだ。
流石、爆速の車を頼んだ甲斐だ。
「あぁ、運転席の人的にそうだと思います。」
「雁蘭さん、この距離でよく見えますね。」
「顔じゃなくて一員が付けるらしいブローチで判りました。」
得意げに言うと、鐘醴さんから避難の視線が飛んできた。
見てる暇があったら探しておくべき、という感情がひしひしと伝わってくる。
「運転士さんもう少しスピードあげれますか。」
「あぁ、任せてくれ。」
運転士はスピードをあげ集中しだした。
鐘醴さんがこちらに向き直る。
なんか言われる!そう感じた。
しかし、鐘醴さんの口から出てきたのはため息だった。
「はぁ、私が貴方のその傷について釉柳様と皇帝陛下の言及されるのが怖いですよ…」
「あぁ、これ?ぶつけて切っただけだよ?」
適当にごまかしの言葉を入れたがとっくにバレてるようで訝しげな視線を浴びた。
「それ、どう考えても銃弾なんですけど。」
「はぁい、勝手に動いて挙句の果てあんま気にして無くてすみませぇん…」
ぐうの音も出ない正論に謝る。
「そうです。見えたんですけど、とにかく書類持って帰るためだけに攻撃をあまり気にしてませんでしたよね。」
「いや、死にたくはありませんでした。」
「それですよ。死ぬこと以外問題無しみたいな態度困るんですよ!雁蘭さんは要人なんで。」
鐘醴さんが声を大にする。
「以後気をつけます…。」
「もう良いかな?」
運転士から声が掛けられた。
「え?」
鐘醴さんと揃って素っ頓狂な声が出た。
運転士からはため息が投げられる。
「いやねぇ?君たち、爆速の依頼に従って、もう着いたんだよ」
あぁ、とようやく理解する。
「あ、ありがとうございました!」
「ありがとうございました。では雁蘭さん行きますよ。」
そう言って鐘醴さんにまた抱えられた。
そして帰路に着いた。




