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「皇帝陛下がお会いしたいそうよ。」
「…は」
突然の情報に開いた口が塞がらない。
「なぜですか。」
「汲徳商館の件を詳しく教えてほしい、というのが…表向きの理由ね。」
釉柳妃は言いづらそうにしている。
もう話が読めてしまったが、一応聞き返す。
「それ以外になにか。」
「顔かしら…その、妃にほしいらしいわ。」
はぁ、と二人でため息をつく。
なんというか、永遠に増え続ける妃に薄々感じていたが女を作り過ぎじゃないか。
「釉柳様、雁蘭様。」
どんよりとした空気の中、鐘醴さんがこちらに来た。
「え、何その様付け。」
「その件ならもう大丈夫です。」
釉柳妃は表情を明るくするが、私には何もわからず呆然と立ち尽くす。
「今は私が雁蘭様の護衛なので。そして妃として取りたいという発言を撤回させました。」
「さすがね、ありがとう。」
すごい、皇帝の発言を撤回させるなんてなにをしたのだろう。
色々思案していると、釉柳妃の口からとんでもない言葉が飛び出てきた。
「でも、よかったのかしら。鐘醴殿だってわざわざ自分の家族を差し出す必要なかったのに…。」
頭の中が真っ白になる。
(今、イマなに言った?カゾクを差し出す?)
私のために相当なことをさせている。
「別に良いんです。妹は以前から皇帝のお目にかかりたいと言っていましたのでこちらには一石二鳥です。」
本人の同意があるならと少し安堵するがそれでもやはり申し訳無さがある。
というかなんで皇帝陛下も同意をしたのだろうと考える。
それと同時にその疑問についても説明された。
「それに、皇帝からしても醴の血筋から娘を取れて、好みの色の薄い娘を手に入れられるんで願ったり叶ったりでしょう。」
なるほど、と合点が行く。
それなら何故今までは妃として取られてなかったのだろうという疑問も出るが、そこには目をつぶった。
自ら気まずいところを掘り起こす気もない。
皇帝陛下は色素が薄い子が好きなのか、と少し趣味が見えてなんとも言えない感情が襲ってくる。
「私がずっと今まで止めてただけなんで、もう良いのかなと思いまして。」
「皇帝陛下はなにも仰らないんですか?」
疑問と少しの遠慮から、恐る恐る質問する。
「妹は私が駄目と言ったら甘く、妹が嫌と言ったら皇帝陛下は甘いんで…。」
「なるほど、鐘醴さんが嫌で…ってことですか。」
「まぁそうなります。私の妹を何が嬉しくて皇帝なんかに差し出すんです?」
軽い気持ちでした質問に棘が含まれる返事をされる。
思わずタジタジになって返事が弱くなる。
「ま、まぁそれはそうかも知れませんが…」
私の断定を避ける言い方に釉柳妃はクスリと笑った。
「じゃあ、雁蘭殿を皇帝陛下に渡すのが嫌だったのね」
「違います。」
釉柳妃が楽しそうに誂うと鐘醴が明らかに眉をしかめた。
そして食い気味に早口で否定した。
「困るでしょう。皇帝に取られたら調査の手柄がこちらから無くなります。」
「私の気持ちも考えてくれたんですよね?私の帰りたいという気持ちも。」
冷静な機械のように感情を無視した理由を提示された。
思わず、腹の奥のほうに力がこもって軽い不快感を感じた。
だから、少し責めるように聞き返した。
なのに、私のこのような念押しも軽くあしらわれた。
「…はいはい、そうですね。」
「ちょっと?」
「はい、止まってー。」
私が怒りを込めて声を上げると、釉柳妃に待ったをかけられた。
「鐘醴殿から現地調査の話を聞いて、皇帝陛下にもお話を伺ってみたの」
そのように話されてると、こちらの言葉の取っ組み合いも収まった。
私もスッと話を聞く姿勢に入る。
「薊兆に行くように公式に出たわ。人も手配をしてくれるらしいの!」
「君たちの好みに合わせて人は少しだけ少なめに手配してもらうことになっているから。」
心配ないわよ、と説明をされて安心する。
何かと大所帯だと気苦労が多いので。
私はそう喜んでいると鐘醴さんは隣で渋い顔をしていた。
「私一人でこの人の押さえ役をやるんですか…」
「なに、人のこと暴れん坊みたいな言い方するんですか!」
「そうね、こちらが出す人事は護衛でしかないから。」
私一人で突っ込んだが、釉柳妃からも無言の同意をされてしまった。
自分自身をそんなに自由気ままに行動する種類ではないと思っていたから不服だ。
「大丈夫ですよ、雁蘭様。貴方が問題行動をしてるわけではなく、いつもより好きに動けなくなるという話なので。」
「ねぇやっぱりいつも暴れ回ってるって言ってるよね?」
「別に雁蘭様のことを私はそうは思いませんが?今回の調査が危険なだけなので。」
鐘醴さんの棘がある発言に文句を付けるがのらりくらりと逃げ回られる。
そして、距離感の出る呼び方が、更に毒舌さに磨きがかかっている。
「てか、私、様付け辞めてってずっと言ってるよ?距離を感じるから怒られてる感を感じる。」
「棘のある言い方はわざとですね。自身に問題がないとお思いで?」
ついに出てきた鐘醴さんの内心に、やっぱりね…と文句をつけながら、ずっと黙っていた釉柳妃に話を振る。
「釉柳様、そういえばいつ向かうんですか?」
「3日後、早急に向かうそうよ。」
「住民の誰かに手帳を見せることが主だ、と聞いたから早めが良いかと思って。」
釉柳妃が向かい方などの予定を細かく説明をしてくれた。
「そういう感じで、良いかしら。」
「はい、尽力します。」
一通りの説明を聞いて返事をする。
釉柳妃から戻っていいと許しが出たので、鐘醴さんの後ろから出た。




