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会話の中で戦争、という言葉が出てきた瞬間空気が凍る。
鐘醴さんが恐る恐る、という風に希㐴の様子を窺った。
「戦争、とは?」
「あぁ、流石にこんな所は攻めないっぽいですよ?東隣の淋藤とか言う話です。ほら、英雄の四宝刀の儡葬刀で有名な。」
英雄の四宝刀、昔に今の地域になるまで戦争を繰り返していた。
その当時、鍛冶師から特殊な材料で造られた刀を授かった主将が、戦いを収めたと言われている。
今もその刀がある限り、英雄の証であり永遠に負けることはないほどの兵力を持つのだ。
その地域に挑むなど、無謀にもほどがあるわけで疑問が漏れる。
「勝てると思ってるの。」
「そうらしい。永遠の鞘がある限り無理だと私は思うんだけどねー。」
鐘醴さんと希㐴で話が進むのにたまに口を挟む。
私はひたすら手帳に筆を走らせてメモを取っていた。
一度、ペンを置いて鐘醴さんに話しかける。
「鐘醴さん、私達で泈箋川行きませんか」
「はぁ、流石にそれは私一人じゃ護衛は難しいでしょう。」
提案をすると目も向けずに一蹴される。
負けまいと言い返した。
「私少しは戦えますし」
「あなたを戦わせるような事があったら私の首が飛ぶんですけど!」
必死で止める鐘醴さんの発言を聞いて閃いた。
「じゃあさ、希㐴案内役として付いてきてよ。総合帳簿士の家族としての権力で無理かな?」
「そんなところで権力使ってんじゃないよ雁蘭!」
私の提案に希㐴も笑って流した。
そんなにだめなのか。
「直接行ったほうが調査は進展する!」
「それは、そうかも知れないですが…、はぁ分かりました。釉柳様に相談してからにしません?」
鐘醴さんにそう宥められて黙る。
反論の余地もなく私の意図も汲んでくれたため諦めることにした。
「ま、まぁ…それなら?」
「結局探すのは紫陽妃のスパイですからね」
「えっと、珠玲の身元の確認でしょ?芳来の地元が薊兆なのは確かだし、水宝玉の親族だしで調べだしてるから、現地で情報探したほうが良いでしょ。」
「待ってそれってどこ情報ですか?」
私の話に鐘醴さんが焦る。
あれ、話してなかったっけと思い出すと、確かに話していなかった。
「ほら、私のこと好きにするだけして去っていったとき。」
「なっっ!?…あぁ、あの後ですか。」
「え、その話詳しく。」
希㐴が急に横槍を入れてきた。
「私が意地悪しすぎて、鐘醴さんが怒って腕縛ってきた。」
「おぉ!積極的ぃ!」
「そういうのではない。」
ノリノリの希㐴を宥めて、鐘醴さんに説明する。
「一つ、何冊目か書いてない手帳があったんですけど…。どうやらこの本を読んだ子孫は謀反を阻止するために薊兆のある場所に来いって書いてあって…」
手帳を直接見たほうが分かりやすいと補足しながら話す。
鐘醴さんは渋い顔していた。
「困ります。罠だったらどうするんですか。あなたは人よりも特殊な立場で重要な人間だということを理解して下さい!」
「私は私の先祖を信用…私の先祖かは怪しいけど。」
怒り心頭な鐘醴さんを宥めるようにそういうと更に燃え上がる。
「あんた、すごいね…」と希㐴が呆れていた。
「どういうことですか?なおの事、不安なんですが。」
「梨醴っていうらしい。私のところは蘭だから」
日記の主の名前を伝える。
元々私の家はバラバラだから蘭が入らない可能性があるとはいえ、わざわざ他所の家の名前を奪わないはずだ。
「は?醴って甘酒の醴じゃないですよね?」
「いーや?鐘醴さんの醴と同じ醴」
ゆっくりと鐘醴さんの目が見開かれる。
言葉に悩んでいる様子が見て取れた。
「グラデーションの瞳好きらしい。鐘醴さんと一緒だね。」
「もし鐘醴さんの血縁者なら信用していいかなーなんて思ってる。」
「え、はい?」
またまた瞳孔が開いた鐘醴さんに聞き返されたのでもう一度繰り返した。
すると、今度は顔を真っ赤にしだした。
「ちょっと、私の前でいちゃつかないで。生々しい」
「どこが?」
「あんたほんとすごいね。」
疑問点を口にすると、希㐴の毒舌に晒される。
度々おかしいと言われるのは心外だ。
「何度も言いますよ、罠かと疑ってかかりなさい。知り合いの知り合いは他人です!」
「あ、全然イチャイチャじゃなかった。」
鐘醴の説教に希㐴が残念そうにする。
「埒が明かない。貴方に疑うことを教えるのは諦めました。釉柳様に此方から聞いておきますんで好きにして下さい…」
鐘醴さんは呆れを含んだ声で一息に言い切る。
人にお手上げだと言われるのは初めてだ。
私はそんなに学習しないのだろうか。
「あ、行っちゃった…。鐘醴さんの話たくさん教えて〜?」
「なにもないけど…」
「またまた〜」
希㐴の質問攻めに言葉を選びながら答えた。
後の噂にならないように、と考えながらなため、どっと疲れて屋敷に帰ることになった。




